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第32話 教皇選抜試験の準備

 翌日。

 学院に戻った愛理は、さっそくローナとラウラを訪ねた。

 教皇選抜試験の補佐をしてほしいと二人に頼んだのだ。

 二人は快諾してくれた。

 念のため、マーガレットに補佐が決まったことを報告すると、ラウラのシスターの制服も優先して作ってもらえることになった。



 次の週末。

 愛理はローナとラウラを連れて、エヴァンス家にやってきた。

 イアンとマリアンヌは、ローナとラウラを出迎えに玄関に出てきた。

 イアンは会釈する。


「シスターローナ、ラウラ。久しぶりだな。今回はアイリーンの補佐を引き受けてくれて、ありがとう」


 ローナは軽く手を上げた。


「イアン様。お久しぶり。教皇候補の補佐を任されるなんて光栄だよ。マリアンヌお嬢様もお久しぶりです」


 マリアンヌも二人に会釈した。


「シスターローナ。お久しぶりです。それで、あなたがラウラさんね」


 ラウラはぺこりと頭を下げた。

 マリアンヌはラウラに笑みを向ける。


「学院ではアイリーンの『姉』をしてくれていると聞いているわ。それから、アンジェリカのライバルなのでしょう」


 マリアンヌの一言にラウラは戸惑った。


「誰からそんな話を……」

「アンジェリカよ。アイリーンの洗礼式の日に、アンジェリカにアイリーンをお願いしたのだけど、ラウラさんに先を越されたと言っていたわ。アンジェリカが学院に入学してから、たまに会う度にあなたの話を聞いていたのよ。一度会ってみたいと思っていたのよ」

「アンジェリカ……」


 ラウラは意外な繋がりに頭を痛めた。

 マリアンヌはローナとラウラをリビングに案内した。

 メアリーがお茶を用意してくれる。

 そこへ新たな来客がやってきたので、マリアンヌが玄関まで出迎えに行く。


「クレイグ様! お待ちしておりました。さぁ、中へお入りください」

「マリア。久しいな。お邪魔するよ」


 リビングにやってきたクレイグは大柄で、メアリーが熊のようだと言ったのはあながち間違いではないと愛理は思った。

 イアンが愛理を紹介する。


「この度は護衛騎士をお引き受けいただき感謝いたします。わたしが後継人を務めております教皇候補のアイリーンです」


 愛理はお辞儀をする。


「はじめまして、クレイグ様。アイリーン・エヴァンスと申します」

「はじめまして、アイリーン嬢。クレイグ・ホーウェイです。この度は教皇選抜試験の護衛騎士に任命していただき、大変光栄です。全力を尽くします」


 ローナは笑みを浮かべてクレイグに挨拶をする。


「クレイグ様、お久しぶりです。ご一緒できて光栄です」

「シスターローナ。よろしく頼みます。ラウラも久しいな」


 ラウラはぺコリと頭を下げた。

 愛理はすでに二人がクレイグと知り合いのようで驚いた。


「ローナ先生も、ラウラお姉さまも、クレイグ様とお知り合いなんですか?」


 ローナは愛理の方を向いて頷く。


「最近では大規模討伐の時にご一緒したんだ」


 クレイグとはじめて会うのは愛理だけだったようだ。

 ダイニングテーブルの椅子に、愛理、イアン、クレイグ、ローナがつき、丸椅子にラウラが座った。

 愛理はみんなに試験の内容を説明する。

 説明を聞いたローナは顎に手を添えて言う。


「筆記試験は自由時間に勉強しているけど、さすがに二年分を補うのは難しい。現地試験は試験までにどれだけ支援要請があるかどうかだな。大規模討伐を経験しているアンジェリカが強い。シスタージョアンナも場数は多い。魔力測定は、これはどうしようもないな。問題は演説か。なにを話すかだな。これはシスターレイチェルが有利か」

「演説についてなんですが、少し考えてみたんです。前にローナ先生が言っていたでしょう。遠征の料理がまずいって。遠征時の食事について話そうと思うんです。メアリーにも手伝ってほしいことがあるの」


 少し離れたところで控えていたメアリーは、愛理に名指しされて驚いた。


「わたしに、ですか? もちろんわたしにできることがあれば手伝いますとも」


 ローナは首を傾げて、愛理に尋ねる。


「何をする気?」

「遠征の時の食料について改善できるのではないかと思っていて。メアリーに試すのを手伝ってもらいたいの」


 イアン、クレイグは感心したような表情をしている。

 ローナも頷く。


「着眼点はいいかもしれない。教会の未来とか語らせるより面白い。でも、料理は騎士団の仕事だから教皇選抜試験の題材としてはどうなのかな?」


 イアンは愛理に加勢した。


「教会のシスターやブラザーだって、遠征時の料理が美味しくなったら嬉しいだろう」


 ローナは前下がりボブの赤髪に手をやる。


「まぁね。そりゃ嬉しいけどさ……」


 イアンは愛理に言う。


「アイリーンが一度試してみたいというのなら、試してみるといい。それを見てから演説の内容を考えよう」


 愛理は手を合わせて笑みを浮かべる。


「ありがとうございます。できたら、みなさんにも食べてもらいたいです」


 この日はそれでお開きになった。



 みんなを見送った後、愛理はメアリーと一緒にキッチンに立った。

 メアリーは愛理に尋ねる。


「アイリーンお嬢様。何をお作りになるんですか?」

「乾燥野菜とトマトペーストと乾パンを作ろうと思っている。メアリー、材料と器具についてなんだけど、まずは乾燥野菜を作るためのザルってある?」


 メアリーは少し考えてから答える。


「干し肉を作るときの網でよければございますよ」

「見てみたい」


 愛理とメアリーは裏口から庭に出る。

 その一角に網とそれを保護するネットが張ってあった。

 愛理は家の裏口から出たことがなかったので初めて見た。


「うん。使えそう。次なんだけど……」


 愛理はメアリーに確認をしていく。

 なんとか作ることはできそうだ。

 まずは、乾燥野菜を作ってみることにした。

 人参、玉ねぎ、茄子をカットして、裏庭の網の上に並べて干した。


 次に、乾パンを作る。

 ローストして砕いたアーモンド、小麦粉、バター、砂糖、塩、イースト、水を入れて捏ねる。

 フォークで穴をあけてから生地をカットして、薪オーブンに入れた。


 乾パンを焼いている間に、今度はトマトペーストを作る。

 トマトをカットして、しばらく煮た後、裏ごしした。

 玉ねぎとニンニクを刻んで炒め、裏ごししたトマトと一緒に鍋に入れた。

 塩、コショウ、ワインで味を調えてしばらく煮る。

 出来上がったトマトペーストは煮沸した瓶に入れた。

 薪オーブンに入れた乾パンも焼き上がったようだ。


 一通りできて、愛理はリビングでお茶を飲んで一息つく。

 メアリーが感心したように言う。


「アイリーンお嬢様。お料理の手際がよくて驚きました」

「家でお母さんと作ったことがあるの。器具の使い方とか分からなかったから、メアリーに手伝ってもらえてよかった」


 マリアンヌは尋ねる。


「アイリーンのお母さまも料理をするのね。美味しそうな香りがしていたけど、いつ食べられるの?」

「明日の昼ごはんは私が作ってもいい? みんなの意見を聞きたいの」


 メアリーは嬉しそうに頷く。


「アイリーンお嬢様が作って下さるのですか。楽しみですわ」


 イアンも笑顔で頷いた。


「ああ。楽しみだ」



 翌日の昼食。

 干していた野菜とトマトペーストを入れてミネストローネを作った。

 昨日、作った乾パンもテーブルに並べる。

 食前のお祈りを終えて、みんなが食べるのを愛理はドキドキしながら見守った。

 イアンは乾パンを一口食べて驚いた顔をする。


「うん。うまい。このパンも固いが薄いから食べやすい」


 マリアンヌはミネストローネを食べた。


「トマトの味が濃厚で美味しいわ」


 愛理はみんなに尋ねる。


「このスープに入っている人参と玉ねぎと茄子は、乾燥させたものを入れたの。どうかな?」


 メアリーはスープに入っている野菜を一口食べた。


「スープの味が染みていて美味しいですよ」



 昼食後。

 イアンにキッチンで野営の時の料理の作り方を説明した。

 それから、ダイニングテーブルで意見を聞く。


「乾パンというものはいいな。野営時のパンより美味しかった。トマトペーストも野営のたびにと言うわけにはいかないが、長期の遠征になった時に支援物資としてあったら士気も上がりそうだ。乾燥野菜だが、調理時間の短縮や荷運びの時にかさが減っていい。だが、干すための施設や設備が必要になりそうだ。実現は難しいだろう」


 愛理はイアンの意見を聞いて頷く。


「確かに、討伐に行く人数分の野菜を干すのは難しいですね」

「二日か三日ごとに物資の補給もあるし、野菜については今のままの運営でいいと思う」

「では、改善案としては乾パンとトマトペーストを提案がいいですね」

「ああ。来週、みんなにまた集まってもらって意見を聞こう」



 翌週の土曜日の昼。

 エヴァンス邸にクレイグ、ローナ、ラウラを招いて、昼食会を開いた。

 そして、乾パンとトマトペーストを披露した。

 まずは簡単に作り方を説明して、みんなに食べてもらう。

 クレイグ、ローナ、ラウラは乾パンに特に興味を示し、スープも美味しいと言ってくれた。

 クレイグはミネストローネを一口食べて、感心したようだ。


「アイリーン嬢は料理も得意なのだな」


 ローナは乾パンを食べ終えて頷く。


「この乾パンってやつ美味しいよ。もそもそしてない。パリッとしていて食べやすい」


 ラウラも頷く。


「アイリーン。頑張った。すごい」


 愛理は照れた笑みを浮かべる。


「演説の内容はこれでいいですか?」


 ローナは少し考えてから頷いた。


「そうだね。いいと思うよ。演説っていうか提案って感じだけど、話し方や内容をよく考えて、具体的な案がもうできていると示すことができるのは強いかもしれない。一度これで演説の原稿を考えてみよう」

「はい」


 愛理は頷いた。

 演説について無事に内容が決まってほっとした。

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