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第31話 発表

 教皇選抜試験の候補者は朝のお祈りの時間に発表された。

 登壇している教皇のマーガレットが言う。


「教皇選抜試験の候補者が決まりました。呼ばれた者はその場で立ちなさい。まずは一人目、シスターレイチェル」

「はい」


 レイチェルは立ち上がる。

 王女でもあるレイチェルは非常勤のような働き方で、いつもはいないがこの日は候補者の発表があるので来ていた。


「二人目はシスタージョアンナ」

「はい」


 肩くらいまでの長さの茶髪の女性が立ち上がる。

 愛理はジョアンナを初めて見た。


「三人目はアンジェリカ・ランドール」

「はい」


 通路を挟んだ隣の長椅子に座るアンジェリカが立ち上がった。


「四人目はアイリーン・エヴァンス」


 愛理はまさか自分が呼ばれるとは思っておらず、ぽかんとした。

 隣に座るラウラが愛理の腕を掴んだ。


「アイリーン、呼ばれている。立って」


 愛理はラウラの顔を見て、はっとした。

 慌てて立ち上がる。


「は、はい!」

「以上、この四名が候補者です」


 教会に拍手が響き渡る。


 ――大人しく生活をして、教皇候補に選ばれないようにするって、イアン様と約束していたのに……。


 そんな愛理の気持ちなどお構いなしに、周囲はお祭り騒ぎになっていた。



 教皇選抜試験の説明があるというので、候補者の四人は教皇の執務室へと移動した。

 執務室には愛理、マーガレット、レイチェル、アンジェリカ、ジョアンナがいる。

 マーガレットが手を差し出して言う。


「候補者の皆さん、お掛けください」


 候補者たちは席に着く。

 座っている人たちが凄すぎて、愛理は委縮した。

 場違いな気がしてしょうがない。

 マーガレットはみんなの顔を見渡してから話し出す。


「今日、みなさんを呼んだのは教皇選抜試験についてです」


 候補者たちは頷いた。

 それを見て、マーガレットは続ける。


「教皇選抜試験の概要をお話しします。教皇選抜試験は四月一日から開始します。試験は全部で五つ。一つ目は筆記試験。二つ目は魔力測定。三つ目は現地試験。四つ目は演説。五つ目は支部の運営を一か月程度していただきます。どの支部になるかは他の試験後に発表いたします」


 マーガレットが間を置いてから口を開いた。


「続いて、試験の準備についてですが、試験中は護衛騎士二名、教会から補佐二名をつけることができます。教会からの二名は各々依頼したいシスター、ブラザーに直接声を掛けてください。騎士については伝手のない方もいるでしょう。一か月後、騎士団長との面談を予定しています。そこで推薦を受けることも可能です。一度家に帰り、家族とも話す必要があるでしょう。ジョアンナ、あなたは西部の出身でしたよね?」

「はい。教皇様」

「では、あなたには今日から一か月のお休みを差し上げます。一度実家へ戻って家族と相談なさい」

「ありがとうございます」


 ジョアンナは頭を下げた。


「ここまででなにか質問のある方はいますか?」


 レイチェルが手を上げた。


「筆記試験の科目をお教えいただけますか?」

「神学、数学、歴史、地理、魔法学、医学です」


 ジョアンナが手を上げる。


「現地試験とは?」

「狭間の森に赴き、探索をしていただきます。討伐だと思ってください」


 愛理は手を上げる。


「演説はテーマなどあるのでしょうか?」

「ありません。自由にテーマを決めていいですよ」


 アンジェリカが手を上げる。


「アイリーンはまだ学院の一年生です。筆記試験、現地試験は不利だと思いますわ」

「そうですね。あとで個別に言おうと思っていましたが、アイリーンには自由時間に講師をつける予定です。現地試験については、試験までに討伐依頼があれば優先的に回します」


 手が上がらなくなったのを見て、マーガレットが頷く。


「それでは以上です。アイリーン、アンジェリカ以外は退出してください」


 レイチェルとジョアンナは退出していった。

 マーガレットがアンジェリカとアイリーンに言う。


「二人には他の三年生より優先してシスターの制服の支給を行います。教室に戻る前に服飾課に寄って採寸してもらいなさい」


 愛理は軽く手を上げる。


「どうしましたか? アイリーン」

「私にもシスターの制服の支給があるのですか?」

「ええ。今はまだ見習いですが、教皇選抜試験に出るのです。見習いの制服というわけにはいきません」

「分かりました」

「それから、アイリーン。教皇選抜試験に参加中は授業を欠席することになります。試験の結果次第で二年次以降については検討します」

「分かりました……」


 教皇選抜試験後は自由時間はまた補講になりそうだと、愛理は覚悟した。



 週末。

 イアンと教皇選抜試験について話すため、愛理はエヴァンス邸へと戻った。

 愛理はリビングでイアンとマリアンヌとお茶をしながら、マーガレットから説明を受けた内容を話す。


「教会からの補佐はローナ先生とラウラお姉さまに頼もうと思っている」

「いいだろう。補佐はアイリーンが信頼のおける人に頼んだ方がいい。問題は護衛騎士の方だな。一人は俺がなるとして、もう一人だ。選任は俺に任せてもらってもいいだろうか?」

「うん。騎士の知り合いはジュリアスくらいしかいないから。イアン様に決めてもらえると助かる」

「ジュリアスはランドール家だから、アンジェリカの騎士として立つだろうな」

「他に心当たりはある?」

「クレイグ・ホーウェイ様に頼もうかと思っている」


 マリアンヌが両手を合わせて賛成する。


「クレイグ様ならうちとも縁が深いし、いいと思うわ」


 愛理はクレイグ・ホーウェイという名前に聞き覚えがあった。

 思い出してぱちんと手を叩く。


「ああ! マリアンヌの好きな熊さんみたいな人」


 それを聞いて、イアンは苦笑する。


「その覚え方はどうかと思うが……。剣の腕前は確かだし、頼んでみよう。来週、顔合わせができたらと思うのだが、シスターローナとラウラも我が家へ連れてきてもらえるか?」

「二人の予定を聞いてみるね」


 騎士と補佐の件は一通り決まったので、一息つくことにした。

 イアンがお茶を一口飲んでから言う。


「アイリーンを預かると決めた時は、まさか教皇選抜試験に参加するようなシスターになるとは思っていなかった」


 マリアンヌは頷いた。


「そうねぇ。Aランクだったけれど、見習いだし選ばれることはないと、わたしも思っていたわ」


 それは愛理も同様だった。

 まさか自分が教皇選抜試験の候補者になるなんて思ってもいなかった。

 入学前にしたイアンとの約束を守れなかった。

 愛理はシュンとして言った。


「大変なことになってしまって、ごめんなさい……」


 イアンは笑みを浮かべて言う。


「謝ることはない。アイリーンが認められるきっかけとなった大規模討伐で、アイリーンの活躍がなければどうなっていたことか……」


 マリアンヌもイアンに同意した。


「そうよ。雷の魔法なんてよく操れたわね。二種類以上の精霊を使う上級魔法でしょう。たしかアイリーンは、訓練では中級クラスだと言っていなかった?」

「図書室で上級魔法についての本を読んでいたから。初めて使ったけど、魔力切れを起こしてしまった」

「そうでしょう。天候を扱ったのだもの。相当な魔力消費だったでしょうね。それにしても、練習もなしによくやったわ」


 それを聞いたイアンが顔を顰める。


「雷の魔法を練習で使われたらたまったものではない。王都中が混乱してしまう」

「ふふ。確かにね」


 マリアンヌは口元を隠して笑った。

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