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第24話 豊穣祭①

 豊穣祭当日、愛理とマリアンヌは豊穣祭用にあつらえたドレスに着替えた。

 肩を出したおそろいのデザインで、マリアンヌは青、愛理は赤いドレスだった。くるんと回ると、スカートがふんわりと広がり、踊ったら映えそうだ。

 髪はメアリーに結ってもらって、同じアップにした。


 愛理たちが二階から降りていくと、リビングには正装したイアンとジュリアスが待っていて、マリアンヌを見たジュリアスは立ち上がった。


「マリア、綺麗……」


 ――ジュリアス、私もいるんだけど……。


 ジュリアスの目にはマリアンヌしか映っていないようだ。


「ふふ。ありがとう、ジュリアス」


 マリアンヌをエスコートするジュリアスは、ぎくしゃくとしていて転ばないか心配になる。

 イアンも愛理をエスコートする。


「アイリーン、今日はなんだか大人っぽいな。素敵だよ」


 イアンはそう言って、微笑んだ。

 愛理はどきっとする。

 愛理は照れて赤くなった顔を俯かせて言う。


「ありがとう。イアン様も素敵だよ」


 愛理、イアン、マリアンヌ、ジュリアスは、ジュリアスが用意した馬車で会場へと向かう。

 住宅街を抜け、王城の前の通りに出ると、商店街の方では露店なども出ているようで賑わっていた。

 愛理は馬車の窓に手を当てて、外を見ている。


「お祭りみたい」


 隣に座っているイアンも窓の外を見た。


「王城に入れない平民の騎士や使用人、商店街の住人などは城下で豊穣祭を楽しむんだよ」


 馬車は城門を潜り抜け、王城の前に止まった。

 愛理はイアンに手を取ってもらって、馬車を降りる。

 豊穣祭は夜会のため、辺りは薄暗くなってきている。

 四人は王城に入り、通路を歩いて、会場に到着した。

 会場は蝋燭で明るく照らされていて、きらきらと輝いている。

 赤い絨毯が敷かれた広い会場にはすでにたくさんの人がいた。

 入り口で飲み物を渡される。


「ワインか葡萄ジュース、どちらがよろしいですか?」


 イアン、マリアンヌ、ジュリアスはワインを受け取っていたが、愛理はまだお酒を飲んだことがないので、葡萄ジュースをもらうことにした。

 それを見たジュリアスは尋ねる。


「アイリーン、お酒は飲めないの?」

「わからない。まだ飲んだことがないの」


 それを聞いたイアンは言う。


「それなら、今度うちで飲んでみようか」


 マリアンヌも賛成した。


「そうね。パーティーでお酒を勧められることも多いから、一度試しておいた方がいいわ」


 ジュリアスはにっと笑った。


「その時は俺も呼んでよ。楽しそうだ」


 そんな話をしていると、会場にラッパの音が響き渡る。


「ジャレッド・グリフィン・ルイス国王陛下、グリア王妃殿下がおでましになられます」


 ざわざわと騒がしかった会場がしんと静かになり、会場中が一斉にお辞儀をする。

 ジャレットは登壇した。


「皆の者、顔を上げよ」


 会場にいた人たちは顔を上げた。

 ジャレットの姿は愛理からは遠くてよく見えない。


「今年も実り多き年であった。女神ララーシャ、大地の精霊ノーム、水の精霊ウンディーネ、風の精霊シルフ、火の精霊サラマンダーに感謝を示し、皆で盛大に祝おうではないか」


 ジャレットはワインの入ったグラスを挙げた。

 それに倣い、会場中の人がグラスを挙げる。


「乾杯」


 それを合図に、会場には音楽が鳴りはじめた。

 会場の中央に現れたのは王太子のアルフレッドとアンジェリカ、次に茶髪にティアラをした女性と、赤髪の男性だった。

 四人は華麗に踊りはじめた。

 愛理はイアンに尋ねる。


「アルフレッド殿下とアンジェリカお姉さま。あとのお二人は?」

「レイチェル・サラ・ルイス王女殿下と、宰相のご子息であるトム・ウィレット様だ」


 ――レイチェル姫。教皇選抜試験の候補者。それからルイーズのお兄さんか。


 四人が踊り終わったのを見て、イアンは愛理にお辞儀をしてから手を差し出す。


「アイリーン、一曲いかがですか?」


 愛理はイアンの手の上に、そっと手を重ねた。


 ――イアン様はいつもかっこいいけど、今日のイアン様は一段とかっこいい。

 

 さっきから愛理の胸は高鳴るばかりである。

 イアンは愛理の手を引いて、会場の中央に向かう。ジュリアスとマリアンヌも一緒だ。

 演奏がはじまると、イアンは愛理の腰に手を添えて踊りはじめる。

 イアンのエスコートが上手で、愛理は安心して踊れた。


「アイリーン、上手じゃないか」

「授業で練習したから。ジュリアスの足はたくさん踏んだけど、イアン様の足は踏まないように気をつけなくちゃ」


 イアンは笑った。


「そういえば、騎士団の訓練の時、ジュリアスがアイリーンに踏まれた足が痛いと言って、サボろうとしていたな」


 愛理もそれを聞いて笑った。

 曲が終わり、二人は中央から離れて飲み物を求めた。

 みんなの前で踊るのは緊張したが、イアンと踊れて楽しかった。

 そこへ正面からアンジェリカが歩いてきた。瞳の色と合わせた緑のドレスで色っぽい。

 愛理は目を輝かせて言う。


「アンジェリカお姉さま、すごい綺麗です! それに先ほどのダンスも素晴らしかったです!」

「ありがとう。アイリーンも可愛らしくてよ。マリアとお揃いなのですわね。イアン様、次の曲はわたくしと踊ってくださいませ。今回はしかたなくパートナーの座をアイリーンに譲りましたけれど、二曲目はよろしいでしょう?」


 アンジェリカがイアンに手を差し出すと、イアンは戸惑うことなくその手を取った。


「もちろんだ。アイリーンはこの辺りで待っていてくれ」


 愛理は二人の後姿を見送る。

 イアンとアンジェリカはお似合いだった。

 愛理の胸はずきんと痛む。


「お嬢さん、おひとりですか?」


 愛理は背後から声を掛けられて振り返ると、そこにいたのはアルフレッドだった。


「俺もイアンにパートナーを取られて、ひとりになってしまった」


 アルフレッドはいたずらっぽく笑った。

 それからお辞儀をして、愛理に手を差し出す。


「アイリーンお嬢様。わたくしと一曲、踊っていただけますか?」


 周りにいた人たちが騒めくのが分かり、愛理は顔を真っ赤にした。


「あの、アルフレッド殿下。おやめください」


 けれど、アルフレッドは手を差し出すのをやめなかった。

 愛理は断れるはずもなく、しかたなくアルフレッドの手を取った。

 愛理はアルフレッドに連れられて中央へと行くと、イアンと目が合った。

 イアンの顔が青くなったのが分かった。パクパクと口を開閉している。


 ――イアン様の言いたいことは分かっているけど、あんな風にアルフレッド殿下に誘われたら、断れるわけがないじゃない!


 愛理も口をパクパクし返した。

 曲が流れ、愛理たちは踊りはじめる。

 アルフレッドはにこやかに言う。


「やっと二人きりになれたな。アイリーン」

「あんな風にされたら困ります。王城に招かれた後もしばらく噂されて大変だったのに……」


 ――またアルフレッド殿下の婚約者候補と噂されてしまう。

 

 愛理は考えただけで憂鬱だった。

 アルフレッドは首を傾げる。


「俺の婚約者候補と噂されたことか? 名誉なことではないか」


 愛理は溜息を吐いた。

 アルフレッドは声を潜めて尋ねる。


「それで、あれから新たな夢は見たのか?」

「残念ですが、見ておりません」

「そうか。連絡がないので、そうだろうとは思っていたが……」

「見たとしても、どうやってアルフレッド殿下にお知らせすればいいのか分かりません」


 愛理は困惑した顔で言った。

 アルフレッドは少し考えてから言う。


「では、俺と文通でもするか?」

「ご遠慮いたします」


 アルフレッドは愛理に顔を近づけてきた。


「それでは、本当に俺と婚約するか? 婚約者になれば、堂々と俺と会えるぞ」


 愛理は顔を赤らめて逸らした。


「冗談はよしてください」


 アルフレッドは愛理の反応を見て、楽しそうに笑った。

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