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第16話 授業開始

『私』は森の中の湖畔にいた。

 目の前には長い茶髪の男性が立っていて、随分とやつれていて顔色が悪い。

『私』たちは言い争っているのだろうか。音声はないが、男性は険しい顔をして何かを言っている。

『私』は手に持ったナイフで男性の腹を刺した。

 倒れた男性からは真っ赤な血が流れ出している。

『私』は涙を流しながら、その男性を見ていた。

 目の端にかかった髪の色は金色だった。



 愛理は、はっと目が覚めた。

 手には人を刺した生々しい感覚が残っていて、涙がぽろぽろと零れ落ちるのが分かった。

 すごく切ない、苦しい感覚。手が震えていた。


 しばらくして、一の鐘が鳴って、愛理はやっと我を取り戻した。

 ソフィーが二人のベッドの間にあるカーテンを開ける。


「おはよう、アイリーン。今日も女神ララーシャのご加護がありますように」


 愛理はまだ寝ていたふりをしてそっと涙を拭い、布団を被ったまま言った。


「おはよう。ソフィーにも女神ララーシャのご加護がありますように」


 ソフィーは愛理が泣いているのに気づかなかったようで、早く起きるように急かしてくる。


「アイリーン、歯を磨きに行こう」

「うん」


 愛理はわざと目を擦った。


「朝起きるのつらいよね。でも、そんなに目を擦ると、ほらぁ、真っ赤になっているよ」


 愛理はソフィーに笑みを向ける。

 泣いていたのはばれなかったようで、ほっと胸を撫で下ろし、急いで朝の支度をはじめた。



 今日も愛理はソフィー、ドロシー、カレンと四人で朝食を済ませ、朝のお祈りはラウラと一緒に出席した。

 愛理が教会を出ると、ソフィー、ドロシー、カレンが待っていてくれて、一緒に教室へと向かった。

 その頃には夢のことは引きずってはいなかった。


 愛理たちが教室に入ると、赤い髪をツインテールにした女の子が愛理に話しかけてきた。


「アイリーン、おはよう。今日も女神ララーシャのご加護がありますように」

「お、おはよう。あなたにも女神ララーシャのご加護がありますように」


 ――昨日、会ったかな?


 愛理は記憶を探るが出てこない。

 赤髪の女の子が言う。


「わたくし、宰相の娘、ウィレット侯爵家のルイーズですわ。よろしく」

「私はアイリーン・エヴァンス。よろしくね」


 ルイーズは愛理と一緒にいたソフィーたちを一瞥した。


「お友達は選ばないと。アイリーンの後継人はエヴァンス侯爵家なのでしょう? なら、あなたも貴族ですわ。わたくしたちと仲良くした方がよいのではなくて?」


 ルイーズの後ろにいる女の子たちがくすくすと笑っている。

 ドロシーが昨日言っていたことの意味がよく分かった。


「ありがとう。でも、ソフィーたちとはもう友達だし、これからも仲良くするつもり。教会では身分は関係ないんでしょう?」


 ルイーズの表情が硬くなるのが分かった。

 愛理は続けて言葉を紡ごうとするが、教室にシスターが入ってきた。

 シスターは二度手を叩く。


「なにをしているのですか。鐘はすでに鳴っていますよ。席に着きなさい」


 ソフィーが愛理の袖を引く。


「席、こっちだよ」


 気まずい空気の中、授業がはじまった。



 そのあともルイーズと話すタイミングがなく、昼食の時間になった。

 愛理は食堂で昼食をソフィー、ドロシー、カレンと一緒に取りながら頭を抱えた。


「やってしまった……」


 隣に座るソフィーが愛理の肩をトントンと叩く。


「かっこよかったよ。アイリーン」


 愛理の向かいに座るドロシーは言う。


「ルイーズの顔、見た? あたし、スカッとしちゃったよ」


 カレンも頷く。

 愛理はさっそくのやらかしに溜息を吐く。


「私、ルイーズに喧嘩を売ったよね」


 ドロシーは身を乗り出して言う。


「がっつりだったね。でも、あたしたちはアイリーンの味方だよ! こうなったら、貴族派と平民派で戦争だぁ! って、アイリーンは貴族か」


 カレンはドロシーの肩を小突く。


「野蛮なこと言わない。まぁ、でも、ドロシーの言うことにも一理ある。わたしたちはアイリーンの味方だから。友達って言ってくれたのは嬉しかった」


 ソフィーは愛理に抱きつく。


「そうだよ。アイリーン。わたしも味方。それに、ルイーズたちはアンジェリカお姉さまの『妹』で一緒に行動しているから、授業以外ではあまり接点ないよ。訓練も中級クラスだし」

「ソフィーたちは?」

「わたしたちは初級クラス。アイリーンは、クラス分けはもう聞いているの?」

「私も初級って言われている」

「じゃあ、一緒だね」


 愛理は三人に励まされて、やっと笑顔を浮かべた。

 

 ――早めにルイーズと話して仲直りしないと。


愛理はそう考えながら昼食を食べはじめた。



 愛理たちは午後の訓練のため訓練場に行くと、一年生から三年生までの総勢二十七名が集まっていた。

 更に、騎士団から十名ほど合同訓練に来ている。


「アイリーン」


 愛理が声のした方を向くと、そこには鎧姿のジュリアスがいた。


「さっそく会ったな。制服、似合っているじゃん」

「ありがとう」


 ――そういえば、前に訓練で一緒になることもあるって言っていたけ。


 愛理は前にジュリアスとした会話を思い出していた。


「ジュリアス!」

「ルイーズ、なんだよ」


 愛理は振り返ると、そこにはルイーズが立っていた。


 ――さっそくルイーズと話す機会かもしれない。


 愛理は勇気を出して、ルイーズを呼んだ。


「ルイーズ」


 けれど、ルイーズは愛理には見向きもせずにジュリアスの腕を取った。


「中級クラスはあちらですわよ」

「待ってよ。アイリーンと話しているのに」

「訓練はもうはじまりますわよ」

「分かっているよ。アイリーンも中級?」

「ううん。私は初級クラス」


 ルイーズはジュリアスを引きずるようにして歩き出した。


「ま、またな。アイリーン」

「またね。ジュリアス」


 愛理は手を振って見送った。


 ――さっきルイーズの名前を呼んだの聞こえなかったのかな。


 愛理はそう思うことにした。


 けれど、嫌な予感は的中した。

 この日から愛理はルイーズの派閥から無視されるようになった。

 そして、訓練ではまた的を破壊した。

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