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プロローグ
愛理は濃い霧の中にいた。
霧の中には他にもう一人誰かいるようだ。
シルエットだけが浮かび上がっていて表情は見えない。
髪が長いので、女性だろうということは分かった。
――そこにいるのは誰?
愛理はそう尋ねたかったが、声が出なかった。
その場から動くこともできない。
ただ女性のシルエットと向き合うだけだった。
女性の方は少しずつ近づいてくるようで、シルエットは大きく濃くなっていく。
霧の中からにゅっとやけに白い腕が伸びてきて、愛理の腕を掴もうとした。
――ひっ。
愛理は恐怖のあまり身を引きたかったが、動くことはできない。
女性と目が合った。緑の瞳だった。
そして、ウェーブのかかった長い金髪。
白い手は愛理を掴むことなく空を掻いた。
「今度こそ、お願い……」
金髪の女性がそう言った。
哀願するような緑の瞳が印象的だった。