表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4話 

「それで、君は正体不明な組織が偶々、犯罪を起こした現場に居合わせたと?」

「はい。家の帰り道で、近道に利用していた廃材置き場を通った時に二人の男がロープで縛った五人の人達を、その···」

「殺したと?」


 浩介が言いづらそうにしていると笠木が重ねる様に言葉を放つ。


「はい、そうです」

「フム。山崎大佐、どう思われますか?」

「率直に言って、あまり信用出来かねますな」

「何故ですかな?」

「簡単な事、そいつ等が無法者であれば、その場で少年を殺害すれば良いだけの事。わざわざ、拉致して貨物船に連れて行く必要は無い」


 山崎は鋭い眼つきで浩介を見据えると椅子から立ち上がり、軍刀を杖代わりにコツ、コツと浩介に近づく。


「私いや、海軍としては少年がスパイと考える」

「えっ!ぼっ、僕はスパイなんかじゃありません!」

「では何故、君は現場で殺されなかった?」


 それはと、浩介は俯くと意を決した様に顔を上げて説明する。


「確かに僕は、殺されそうになりました。でも、後から来た人に止められたんです」


 男に捕まり、後頭部に銃を突きつけられた時はもう駄目だと思った。

 しかし、慌てた様に廃材置き場に入って来たガタイの良い男が東洋人、特に日本人をここで殺せば面倒になると二人を説得して事なきを得たのだ。


「その人はヘタに日本人を殺せば日本政府が本気で捜査を仕出してヤバい事態になると」

「まぁ、帝國臣民を害すれば当然だな」

「然り、たかがヤクザもどきなら報復として皆殺しだろう」


 二人の士官は納得して頷くと浩介に続きを話す様に促す。


「それから、頭に袋を被せられてタンカーに連れて行かれんたんです。そこからは、殆ど部屋に監禁されて居ました」

「君はどうやって脱出したのかね?」

「実は···助けられたんです。あの僕を殺すのを止めてくれた人に」


 そう、タンカーに監禁されて二日目の深夜の事だった。

 突然、扉が開いたと思ったら、あの男性が音も無く部屋に入って来たのだ。

 いよいよ、何かされるのかと身を硬くした浩介に男は安心する様に小声で伝えて後に続く様にと伝えた。


「ハン!ヤクザにも情が残っておる輩は居たのか」


 山崎が鼻で笑ったが、浩介は小さく首をふる。


「いえ、違います。その人は犯罪組織のメンバーじゃ無かったんです。彼は警察の潜入捜査官でした」

「ほぉ、成る程」


 浩介は捜査官の誘導で船尾付近の脱出用ボートに辿り着いて逃げようとしたところ、運悪く見張りに発見された。


「それで、あっという間に人が沢山来て激しい撃ち合いになったんです。捜査官は僕を庇ってお腹と肩を撃たれて···」


 浩介が最後に見たのは夥しい血を流しながら、ボートを固定していたロープを撃ち抜く姿だった。

 浩介は暗い海に落とされたボートの中で我武者羅に操作して逃げるのに必死だった。

 その後、偶然目についた島に上陸してジャングルに身を潜めようとしたが追ってきた二人に拘束されたのだ。


「えっと、以上です」

「まぁ、ここに来た経緯は解った。敵の計略やなんだととかでは無いようだな。佐々江くん、安心して欲しい。君は我が軍がしっかり帝國勢力圏へ送り届けよう。なぁ、山崎大佐」

「海軍は陸軍に反対する」


 海軍の山崎はきっぱりと拒絶の意思を示した。


「理由をお聞きしても?」

「ここは極秘軍事行動中の部隊だからだ、笠木大佐。経緯はどうあれ、ここの秘密を知った民間人を帰すなど、機密保全上あり得ない」

「保全の為に殺すと?それこそあり得ないな。彼は我が帝國の臣民なのだぞ?」

「誰も殺すとは言っておらんでしょう。軍人として民間人を護るのは当然のこと」

「では、海軍はどうすると?」

「海軍としては帝國の主力部隊が進行して島まで到着するまで少年を保護しておけば、よろしい。陸軍が保護を継続するのが難しいなら、海軍が引き取ってもよろしいが?」

「フム。確かに一理ありますな。しかし、海軍は彼をスパイと疑っておるのでは?」

「一つの可能性として言ったまでのこと、年端のゆかん子供にスパイをさせるなど本気では思ってはおらんよ。それに若い戦力を陸軍さんだけにとは狡いじゃろ?」

「ハハハ、そうですかな?では、偶に海軍さんの所に使いに出てもらいますか?」


 二人の士官の話し合いに浩介は眉間にシワを寄せる。

 日本は半世紀前に負けていて、戦争は終っている、日本の主力部隊なんて永遠に来ないと言いたかった。

 そして老人達に課せられた任務は無くなった、皆で日本に帰れるのだと言う台詞が喉元まで出て来た。

 しかし、真剣にこの後の予定を協議する軍人の姿を見て、真実を話しても二人は勿論、この島にいる人達が受け入れてくれるイメージが湧かない。

 下手をすれば、スパイだと改めて言われて身が危険になると浩介は思った。


「佐々江くん」

「えっ?あっ、ハイ!」


 考え事をしている時、笠木に声を掛けられて慌てて返事をする。


「不安なのは分かる。しかし、安心して欲しい。船で二日と言うことは帝國はすぐそこまで来ているのだからね。まぁ、今の情勢等は、君が一番わかってる事だと思うがね」

「ウム、その通りだな。今の儂らの情報は5、60年前の事だからな」

「案外、明日にでも大規模な上陸部隊が来たりしてな。ハハハハハ!」

「全く笑い事では無いぞ、笠木大佐。引き継ぐ部隊への申し送り事項など整理して置かなければならん」

「確かにその通りですな、やれやれやっと部隊が到着しても早々に退役は出来ませんな」

「老骨に鞭を打たねばな!しかし、我々は帝國いや、世界で一番長く兵役に着いたと記録されるな、これは!ハハハハハ!」


 二人は大笑いする中で浩介だけは、顔を暗くして俯いていたのだった。

 そして陸、海軍の話し合いも終わったと山崎は扉へと向かう。

 どうやら陸軍は南の半分、海軍は北の半分といった形に別々の陣地を構築しているらしい。


「おお、そうじゃった!これをやるのを忘れるところじゃったわい!」


 山崎が部屋から出る直前、浩介の所に引き返すと手に持った鞄からビンを取り出すと差し出した。


「海軍謹製のソーダだ!甘いのは好きじゃろ?ほら」

「えっと、ありがとうございます」

「ほぉ、ソーダとは何とも珍しいと、言いますか海軍さんはまだ作っておられたのか?」

「偶に整備でエンジンを蒸す時にな、もう余り作れなくなってきたが、今年の年末には陸軍さんにやる分の備蓄も溜まって来たので、今度運ばせよう」

「それは、ありがとうございます。皆も喜びます」


 満足気に笑うと山崎は部屋を出て行った。


「さて、佐々江くんは兵舎に戻って良い。そうだな、そこまで送ろう」


 二人は本部隊舎から出ると直ぐに洗濯カゴを持った山田と合った。


「敬礼!」

「御苦労。丁度良かった。二等兵、佐々江くんを頼む」

「はっ!」


 山田に預けられて兵舎へと戻る途中、彼は何かを思い出した様に胸ポケットからビニール製の袋取り出すとポレドラ手渡して来た。


「あっ、これって!」

「坊主の下履きを洗っとる時にポケットから、出て来ての。何か、わからんが坊主の私物じゃろ?」


 ビニール袋を貰うと、浩介は中身が無事かを確かめる。

 幸い、防水性はしっかりと保たれていて中身は無事だった。


「そのちっこいのは何じゃい?」

「これはUSBって言う機械です」

「あ?ゆっ、ユーエスべー?」

「USBです」

「ゆー、ゆ〜、まぁ、ええわ!わしゃ、敵性語が苦手なんじゃ!それで、それは坊主の大事なもんか?」

「はい。これは、ある人が僕に託した物なんです···」


 そう言って、浩介の脳裏に銃でロープを切り離す前に託した男が浮かんだ。


『こいつには、奴らを叩き潰す情報が入っている!カハッ!俺はもう駄目だ!君がこれを持って当局へ届けてくれ!』


 自分の死を悟り、残った命を任務の為に燃やす男から渡された。

 その事を思い出して浩介はギュッとUSBを握り締めた。


「そげん、大事な物から無くさんわように、これに入れとけば良い」


 山田はそう言って首にかけている紐を取り出す。

 紐の先には『武運長久』と書かれた馴染み深い御守がくくり付けられている。


「こん中に入れて首にぶら下げとけば、無くさんやろ?」

「これって、山田さんの大事な物じゃないの?」

「よか、よか!この歳になるとな、戦う前に寿命で逝ってしまいそうじゃからね!これから、戦う若い奴が持っとる方がご利益があるじゃろ」


 山田に言われて、浩介はありがとうございますと頭を下げると御守をもらい中にUSBを入れた。


「そんじゃ、この洗濯物を干しに行こうかいの」

「はい!お手伝いします!」

「フォホホ、元気良いね!よか、よか!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ