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1話

更新は遅いですが、よろしくお願いします!

 ときは、1944年8月半ば。

 うだるような暑さが全身を焦がす真夏の日に、とある埠頭にて。


「笠木支隊長に対し、頭〜中!」


 先任下士官の鋭い号令が響き渡り、定規で測った様に綺麗な整列をする兵士達が一斉に顔を自分らの前に立つ男に向ける。

 男の名は笠木 信重。

 この埠頭に集結した笠木支隊の指揮官であり、その出で立ちは眼光が鋭く、よく鍛えた身体は身に纏った開襟背広型の防暑衣からも覗える。

 そして、笠木の襟には年功序列の大日本帝国陸軍には珍しく30はじめで大佐の階級章が縫い付けられている。

 笠木はゆっくりと敬礼をすると隊員の1人1人の顔を見る様に見渡して右手を下げる。


『皆、若いな』


 そう思いつつも、そう言えば自分も人の事は言えない年齢である事を思い出して笠木は苦笑する。


「直れ!」


 最近の戦況悪化に伴い古参の兵が減少傾向にある性か又は笠木支隊が臨時編成されたのが原因か、支隊の平均年齢は30歳前後であり中にはまだ、20歳前だろう新兵も多い。

 そういった兵は上手く戦えるのだろうかと笠木は一瞬思う。

 敵は自分らの何倍もの兵と砲弾を持ち攻めて来る精鋭無比の米国海兵隊。

 塹壕の中で砲弾の雨あられの中ですくみ上がり、硬直する新兵たちの姿が脳裏に浮かび上がる。


「…長殿!笠木支隊長殿!訓示を、訓示をお願い致します!」


 ふと気付くと先任下士官の藤田曹長が困った顔で笠木を見ている。


「おお、すまん、すまん。少し考え事をしていた。まぁ、許せ」


 バツが悪そうに咳払いをして、そう言うと藤田は頼んますよ、笠木さんと小声で言って来た。

 笠木は改めて自分の部隊を見渡す。

 多くの兵卒は新兵ではあるが、部隊の中核をなす下士官連中は藤田を始め、自分が見習い士官の頃から共に満州で戦った戦友やガダルカナル、マレーなどで戦った歴戦のツワモノが主体であり、彼等は部隊をよく纏めている。

 また各士官は臨時編成ではあるが士官学校を優秀な成績で出た者たちを選抜して集めただけに自信とやる気に満ちた眼差しで指揮官である笠木の命令を待っている。

 何だ、存外心配しなくとも良いなと最初に感じた不安を消し飛ばす。

 笠木は一呼吸置いて訓示を始める。


「諸君、今皇国は亡国の瀬戸際まで追い詰められている」


 訓示の第一声に大本営発表を鵜呑みにしているのだろ新兵達が静かにどよめく声を上げる。

 しかし、そのどよめきを直ぐに近くの古参の上等兵が小突いて黙らせる。


「米国は我々が思っているよりも強かった。我が陸軍、そして海軍も苦戦を強いられている。正直に言おう!確実に本土が敵の手に落ちる事になるだろう!」


 ここまでの訓示で、新兵の顔色は青くなっている者、そんなのは嘘っぱちだと言わんばかりに怒りを込めて睨む者もいる。

 古参の兵と士官は眉をひそめるが、現実をわかっているのか静かに笠木の次の言葉を待っている。


「このまま座して、その時を迎えるのか?否!少なくとも俺は断る!そして、それは諸君らもだろう!」


 笠木が言葉を区切ると一斉に部隊全体から、応との声が木霊する。


「戦況を打開する為、大本営いや、ある方から俺は命令を受け取った。命令は極秘に支隊を編成して、とある島に行く様にとの事だった!」


 その島とは三ヶ月近く前に発見された太平洋上の名もなき島だった。 

 海軍の航空隊の一機が母艦を見失い、件の島に不時着した。

 そして、搭乗員が島内を探索したところ、島でとんでも無い発見をしたのだ。

 何と原油が湧き上がっていたのだ。

 島から脱出して母艦に何とか帰隊した搭乗員は直ぐに報告を上げる。

 最初は太平洋のど真ん中の孤島にある訳無いだろうし、有ってもごく少量だろうと考えていた海軍司令部だったが、一応確認の為に搭乗員の案内の下、専門の軍属集めて派遣し調査させた。

 すると、驚愕することに島で発見された原油は帝国が必要とする量の何十倍、100年は贅沢に使っても枯れる事はない埋蔵量であり、その質は米国や英国の原油よりも圧倒的に質の良い物だったのだ。

 これには海軍は多いに迷ったのは言うまでもない。

 この奇跡の島がどうしても欲しい!

 しかし、奇しくも戦況は甚だ不利で海軍には島周辺の制海権の維持は確実に出来ない。

 また、上陸して占領出来るだけの人材も人数も居ない。

 もし、占領出来ても直ぐに米国に見つかり奪われてしまうのは目に見えてる。

 悩んだ結果、海軍は犬猿の仲である陸軍に話を持ち掛けて議論する事になった。

 結果だけ言おう。

 折角、自分らで見つけたのに米国に奪われてしまうならば、最初っから何も無かった、つまりは島の存在など無かったと言う事にしようと陸海軍は共に結論付けた。

 直ちに島に関する全ての情報を破棄することになった。

 島の位置に規模、植生、航路に空路図を焼却、果に発見した搭乗員や関わった人間全てに情報を墓に持って行く様に命令が下された。

 斯くして、名も無い島は誰からの記憶にも残らない運命を辿る筈だった。

 しかし、決定を下した陸軍と海軍の一部の人間はこれを是とはしなかった。

 誰も知らない島ならば、極秘裏に取ってしまえば良いだけではないか。

 情報は全て破棄された今、例えスパイが居たとしても島の事は摑まれる事は無い。

 正に絶好の機会だ。

 その考えの下、大本営に気付かれない様に作戦計画が作成され、必要な人材と機材や物資を輸送中の事故や撃沈と見せ掛けて掻き集めた。

 こうして笠木支隊は編成された。


「我々の任務は二つ!一つ、島に極秘上陸した後に島内全域を要塞化すること!二つ、要塞で自給しつつ太平洋。最悪、本土占領時の奪還及び、国民の為の避難拠点として死守する事である!なを、島へ向かう途中に海軍の部隊と原油を精製する為の軍属の技術者らと合流する!良いか、この任務は帝国の未来を左右するモノで作戦期間はどのくらいになるかは誰もわからん!今のうちに各人は故郷の姿を眼に焼き付けて逐次乗船せよ!以上、訓示終わる!」


 訓示の終わった笠木に各士官は敬礼する。

 そして、自分の小隊に細部の命令を下達し、輸送船へと規律良く乗船しだす。


「お疲れ様であります、笠木少佐殿」

「おいおい。俺はもう大佐だぞ、藤田」


 訓示が終わり、輸送船へと手早く乗船した笠木の隣に藤田が近寄ると声を掛けて来た。


「うへぇ〜、そうでしたな!失礼致しました、大佐殿!しかし、偉く出世しましたな!」

「ああ。お互いにな、藤田伍長いや、曹長様かハハハ」

「勘弁して下さい!軍曹すっ飛ばしてイキナリ曹長なんて務まるか不安なんですから!」

「なあに、貴様ならすぐに慣れるだろう」

「だと、良いんですがね~。まっ、これからの任務で死ぬ気で頑張ってなれますわ。あっ、もう我々は死んでるでしたな!ガハハハ!」


 そう笠木支隊の兵は皆が書類上は戦死しているのだ。

 だから、笠木や藤田の様な者は二階級特進して大佐や曹長に、新兵達は一階級特進で一等兵に昇進していた。


「そうだ、俺達は死んでる。だから、自分の死体に鞭打って頑張らんとな!ハハハ!藤田、将来要塞には守るべき国民も避難してくる。俺達で難攻不落の城を作るぞ!」

「ええ、アメ公の軍艦1万隻に囲まれても動じんモノを拵えましょう!」

「「全ては陛下と御国の為に!」」


 二人は笑い合って決意を固める。

 そうして、全ての兵と武器、資材を満載にした輸送船団は太平洋に沈み行く太陽光に照らされて港を出港するのだった。











〜帝都・東京郊外 某料亭にて〜


 薄暗くなって来た料亭の1室で数人の軍人、しかも陸軍と海軍という珍しい組み合わせで酒を酌み交わしいた。


「閣下。中野の連絡員からの報告です」


 そこに私服姿の男が部屋の襖を静かに開けて上がり込んで来た。

 途端に全員の酒を煽る手が止まる。


「聞こう」

「ハッ!『タンポポノ、綿ハ、風二、乗ッタ』です!」


 この1室で最も高い陸軍中将の男は、報告の内容に満足したのか口の端を上げる。


「部隊の出港は誰にも見られませんでしたかな?」

「フッ、海軍さんは心配性ですな」

「海軍を侮辱なさるのか!?」

「失礼、失言でしたな。まぁ、そう気色ばらずに、もう1杯どうぞ」


 悪びれた様子も無く手元のに徳利を海軍の少将にすすめるが、結構と無下も無く断られる。

 陸軍中将は、それに気を悪くする様子も無く自分の杯にトクトクと入れるとクイッと飲み干し、海軍少将に安心なされよと言葉を紡ぐ。


「埠頭周辺には不発弾が発見されたとして住民を強制的に退けさせて更には中野学校の奴らを監視に貼り付けおりましたからな、文字通り蟻一匹も出港した笠木達の姿を見た者はおりませんよ」

「中野学校とは?」

「我が帝国の防諜や諜報を主とする所謂、秘密作戦要員を育成する機関です。私は少し伝手が有りましてな」

「ほぅ、それは心強いですな」

「そうでしょう、ハハハ!それで?そちらはどうですか?」

「何、こちらも手筈通りに護衛の駆逐艦3隻に軽空母の少艦隊、それに基地設営隊を合流海域に派遣し終わっております」

「軽空母?また、豪気な事ですな。どのように揃えたのですかな?」

「何、大した事では無いのですが、たまたま修理が終わって試験航海に出た直後にドックを敵の空襲にヤラれましてな、不幸にも工員やら関係者らが亡くなり、これ幸いとドック内にまだ入っていた事にしてやっただけなのですよ」

「ハハハ!流石、天下の帝国海軍!運も天下一ですな!さあ、どうぞ!」


 中将は上機嫌に改めて徳利を向けると今度は少将も拒まずに受け取り、お返しに注ぎ返しをする。


「しかし、駆逐艦はともかく空母まで派遣するのはどうでしょうか?島に着いても敵から発見されるのでは?」

「何、2次調査では島の北側にある洞窟は思いのほか大きいようだと報告がありましてな。3次で測量を精密に実施した結果ギリギリではありますが、何とか全て収容可能と判断したまでです」

「成る程、3次調査でやけに調査済みの洞窟を入念に調べられていたと聞いてはおりましたが、まさか空母とは!いざと言う時に空母の存在はデカい!ハハハハ!」

「期待は大いにして頂いても結構ですぞ!ハハハハハ!」


 両者は、どんどんと杯を酌み交わす。

 それに促されるように陸、海軍両者の酒の量は増していく。

 

「大本営の上の者共はヤル気も無いのに、やれ本土決戦だの、1億国民火の玉だなどと嘯くばかり」

「裏では鬼畜米英にどうやって講和を持ち掛けるかそればかり」

「しまいには天敵であるソ連に仲介してもらおうと足掻いておる!」

「情けない!それでも帝国軍人か!」

「真の帝国軍人たる我々が正さねば!」


 次第に口々に上層部の不満にする。

 上層部への愚痴だけなら、まだマシだったろう。

 彼らの目的は口ばかりの不甲斐ない大本営に対してクーデターを起こし、本当に本土決戦を実現させる事にあった。

 本土で粘るだけ粘り、本土が駄目ならば皇族を保護(拉致)して残存兵力を率いて笠木支隊が構築する要塞を拠点に勝利するまで闘う積りなのだ。

 

「全員、杯を持って起立!」


 中将の号令に陸も海も無く全員が立ち上がる。


ウゥゥゥ~!ウゥゥゥ~!


「閣下!空襲警報であります!待避を!」

「慌てるな!どうせ、こんな帝都の端っこに爆弾なんぞ、落ちてこんわ!さぁ、諸君!明日の深夜、帝都での作戦を実行する!今こそ、憂国の士たる我らが立ち上がるぞ!大日本帝国万歳!乾杯!」


 熱うなされた様に酔いしれ、高らかに乾杯の音頭をとる中将。

 しかし、そこまでだった。

 部下や仲間が乾杯の声を上げる直前、何故か何の戦略的価値の無い料亭に一発の焼夷弾が降って来た。

 現実の熱波、衝撃におそらく痛みは感じぬまま、何が起こったか解らぬまま、その場の全員が焼け死んだ。

 斯くして、大量の原油がある島や笠木支隊の存在は誰の記憶からも無くなり、歴史は史実通りの歩みを進む事になった。

 

 

矛盾したところがあれば、眼を瞑って頂くとありがたいです(^_^;)

こうすれば良いよと言ってくれると幸いです!

感想など、あれば嬉しいです!

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