モリセイとカンナの話
中年男は俺の方を見て自己紹介をした。
「私の名前はモリセイ。元々は科学技術の発展したアタマイ国の研究員だった。しかし私の国はウンガブンガ国に戦争で負けてしまい、この国の為に研究をするように言われ、私はここのラボで働いている。しかし研究というより我儘な姫に無茶振りされ、こき使われているだけだ」
「アタマイ国がこのラボのように科学技術の発展してる国なら軍事兵器も凄いんじゃないんですか?なんでウンガブンガ国に負けたんですか?」
「それは」
モリセイは下を向き拳を握りしめる。
「アタマイ国の最新兵器は姫一人に全て破壊された。戦闘機はジャンプ頭突きでやられ、政府の司令部もこん棒でぶっ叩かれ、大陸弾道弾は姫の熱感知能力で発射する直前に見つけられ、こん棒で潰された。戦車や、無人兵器もあったが、もう言うまでもないだろう。ビキニアーマー隊という大王の趣味で作らせた可愛い部隊がいるが、男装の舞台劇のようなノリで何かそれっぽい事をやってるだけだ。全然戦力にはなっていない。姫以外のこの国の軍事力は実は大した事は無いのだ。だいだい戦場にビキニアーマーの娘を送るなんて常軌を逸している。ビキニアーマーの盾だと言って世界中からウンガブンガは非難されていた。ウンガブンガ国をよく訪問していたアタマイ国の外務大臣は、貴重な人材が失われるからビキニアーマー隊を絶対攻撃するなと国会で吠えた。奴はウンガブンガ国のハニートラップにやられていたんだ。姫はビキニアーマー隊は男兵士をおびき寄せる撒き餌だと言ってるが、これは恐ろしいことだよ」
そしてモリセイさんは俺の前に来て、俺の両肩を強くつかんだ。
「君は姫の婿となるのだ。そして姫の弱点を探り、姫をこの世から亡き者に…」
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。俺は家に帰りたいだけなんです」
「まだそんなことを言っているのか君は?姫と結ばれない限り一生ここで奴隷として暮らすことになるんだよ」
頭がくらくらして来る。
「だがもし君が姫の婿になって姫の致命的弱点を探ることが出来れば、私が命を懸けて君を元の世界に帰れるようにする」
「しかし俺はずっと引きこもってたんですよ。急に王族だなんて荷が重すぎます。しかもあの化け物の夫なんて嫌ですよ。奴隷の方がまだ俺にあってるかもしれない」
「なに?王族より奴隷がいいだって?異世界から来たとはいえ、君は世間知らずにも程があるな」
モリセイさんが呆れた顔で俺を見ている。
「分かりました。それじゃあアタマイ国の科学技術で、俺に何かチート能力つけてくださいよ。そしたら頑張れる気がします」
「チータラ?」
「凄い能力ですよ。レベルが上がっていく凄いスキルとかそんな感じです」
「よくわからないが、そんなのがあるなら私が自分に使って姫を倒しに行ってる」
「もう一回俺の再構成を装置でやり直して能力値を上げてもらうことは出来ませんか?見た目が変わらなけれは姫も気づかないでしょう」
「君は知らなくて当然だが、君を再構成する費用は、この国の国家予算の半年分だ。それを姫が独断で割り当てたが、もう無理だ」
「そんなー」
「しかし、実は視力以外で一つだけ君の能力を上げておいたものがある」
「え?なんですかそれは?」
「肛門括約筋をかなり強化しておいた。君のはちょっと緩かったのでね。私も緩くて嫌な思い出があったので個人的にほっておけなかった。あと奴隷になった時に役に立つと思って」
モリセイが照れた顔をしているのが余計に俺を腹立たせた。
「なんですかそれ?じゃあ俺はもう家に帰ります」
そのときピンポーンとドアチャイムが鳴った。
モリセイは「こんなところに来訪者とは珍しいな」と言って誰が来たのがモニターを確認しに行く。
「おおカンナか。大王宮の仕事はどうしたんだ?なに姫が?分かった上がりなさい」
え、カンナ?まさかな。
少し経ってラボに入ってきたのは、俺の部屋に現れたビキニアーマーのカンナさん、その人であった。
「ああ、よかった。光男さんがここに居て。先程ラボから出て行ったと聞かされていたものですから」
俺は内心とても驚き、カンナさんに再開出来て嬉しかったが「あっ、どうも」と陰キャ特有の気のない返事をした。
「早く光男さんを大王宮に連れてきて欲しいと姫が仰るので、私はここにお迎えに参上した次第です」
「いや。俺は家に帰るんで」
「カンナよ。光男くんはずっとこんな調子なのだ。何度説明しても現実を受け入れようとせず家に帰るの一点張りだ。どうなっているんだこの男は?」
「私もあれから光男さんの事をよく考えたのですが、どうやら光男さんは受け入れられない現実を突きつけられると現実逃避してしまうようなんです」
「困ったな。このままぐずっていては奴隷にされてしまうぞ。姫を倒すチャンスなのに」
カンナは自分の口を手で覆い
「お父さん。その事を光男さんに言ったの?」
「ええっ?お父さん?カンナさんはモリセイさんの娘?」
「あ、はい。父がお世話になってます」
全然似てないなと俺が思っていると、カンナさんは
「そうですよ光男さん。姫の婿になったらピンクビキニアーマー隊の愛人が持てますよ。彼女たちはスタイルが良くて超絶美人ですよ。ハレムで好き放題できますよ」
「そういえばカンナさん前にも言ってましたね。そんな話」
興味が無さそうな振りをする俺だったが、股間が少し反応してしまっていた。
俺の股間を凝視していたモリセイさんは
「私はピンクビキニアーマー隊が光男君の新しいハレムに入るよう大王に頼んでみよう」
「お二人とも俺を馬鹿だと思ってるんですか?ジーラ姫に見つかったらまた俺は殺されるか、奴隷にされるのでは?」
「姫は最近、この惑星を脅かす敵の宇宙軍と戦っているんです。姫が遠征に行ってる時がお楽しみのチャンスです」
「宇宙?姫は何かに乗って敵と戦っているんですか?宇宙戦艦ですか?ロボですか?」
「いえ。姫は生身です」
「まさかとは思いますが、宇宙服も無しで戦ってるんですか?」
「はい。息を止めて、宇宙艦隊をこん棒でしばき倒すと言ってました」
そして、モリセイさんが苦々しい顔をして話し出す。
「私はより高性能のランドセル型推進装置を姫に作らされているのだ。本体は完成したのでピンクに塗って宇宙で剥がれないようにコーティングしている。剥がれたらもっと減給すると言っていた。前の推進装置はジーラ姫が敵艦隊に囲まれている時に故障してしまった。ジーラ姫は敵艦隊の主砲を全方位から浴びるほど食らったのだが壊れたのは装備していた盾だけで姫はなんともなかった。それより姫は息が続かなくて酸欠で死ぬところだった。たまたま敵戦艦がゼロ距離射撃しようと姫に近づいてきたから、それを姫は思い切り蹴って惰性でアタマイ宇宙ステーションに帰ってきたのだ」
俺はモリセイさんの顔を見て
「推進装置に細工して今度は確実に酸欠で姫を殺せばいいのでは?」
「だからもうそれをやったのだよ光男くん。推進装置を故障させたのはわざとだ。もう二度目は無い。次に推進装置が故障したら私を処刑すると言っていた。そして酸素タンクを常に姫の近くに二、三個用意しておくそうだ」
「そんなことをしなくても、顔を覆うタイプの酸素吸入器とボンベを姫に持たせれば良いのでは?」
「それは甘えだと姫は言っていた。あくまで素潜りで息を止めて敵宇宙艦隊を倒すのが美学だとか」
「もう俺はついていけません。家に帰ります」
俺は直ぐにラボを出て行こうと思った。
その時、突然カンナさんが後ろから俺を抱き締めてきた。
俺は突然の事にどうしていいかわからない。
「光男さんのハレムに私が入ります。上手く姫様を誤魔化すので共に頑張りましょう」
俺の耳元で囁くカンナさん。
「あ、はい、よろしくお願いします」
モリセイさんがガッツポーズしているのが俺の目の前の鏡に映っていた。