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光男の悪あがき

白衣を着た中年男が俺の元に戻ってきて「これを飲みなさい。元気が出るから」


黒い液体が八分目まで入った紙コップを差し出す。


得体の知れない飲み物を飲むのは気が引けたが、喉が渇いていたので、ぐっと飲んでみると何とも形容しがたい味が口に広がった。


直ぐに、この場所から出たいと思った俺は


「これは人間ドックか何かですよね?もう家に帰っていいですか?」


「家?この世界に君の家があると思うのかね?」


早くも嫌な答えが返ってきた。


俺は中年男を無視して、今いる部屋の出口を探し始めた。


すると中年男が話しかけてくる。


「君はカプセルにいた時の事を覚えていないのか?」


覚えているさ。はっきりと。俺は意識を取り戻して、自分の眼鏡を探していた。


「眼鏡?」


自分の眼の辺りを触り、眼鏡をしていないことに気が付く。


あれ?周りが良く見えるぞ。俺は両目が視力0.1のはずだが。


「目、目が…みえる」


「君の眼鏡は粉々に砕け、度数がわからなかったから、君の両目の視力を1.2にしておいた」


ええっ?そんな凄い事ができるのか?俺はほんとにあの中で再構成されていた?


「あ、あのちょっと聞きたいんですけど?」


「なんだね?」


「あのカプセルで育つ時に、俺の顔や体を美形にする事は可能だったんですか?体毛を薄くしたりとかも…」


「もちろんだとも。遺伝子情報を書き換えることは可能だ。私はもっと君の見栄えを良くした方がいいと姫様に提案したのだが、姫はそのままの、ありのままの君を再現して欲しいということで却下された。手を加えたのは視力だけだったが、それも姫様はお怒りになった。同じ度の入った眼鏡を作るぺきだったと言われて私は減給された」


余計な事ばかりしやがって、あのゴキブリ人間顔女がー。


「度は入ってないがこれを掛けたまえ」


眼鏡を渡される。


「君の生前の映像から同じ形の眼鏡を作った」


「なんで、あの化け物のみたいな姫の為に俺はここまでしなくちゃならないんですか?俺に自由はないんですか?」


「君、滅多なことを言うもんじゃあないよ。君はいま姫の世界の、姫の国にいるんだよ。姫は何故だかわからないが、君にべた惚れし、告白し、そして君に振られた。たいそう傷つかれ、お怒りになった。君が姫にプロポーズするまで君の身分を奴隷にすると決めたそうだ」


う、そ、だ


「嘘だっ」


俺はここを出て行こうと決心した。服はどこだ?いや、なければこのまま出ていくまでだ。


扉の前で止まる。これは自動ドアではない?どうやって扉が開くのか俺にはわからない。


セキュリティカードか?指紋認証か?明らかに生前住んでいた世界より科学技術が上だ。思ってもみない方法で開くに違いない。


俺の横に来た中年男は俺を憐れむような顔で見て、ドアの横の緑のボタンを押した。


すると機械音と共に薄い扉が横に開く。


俺は出口を求めて走った。足の遅かった俺は中学の時いつも短距離走でビリだった。もし誰かが追いかけてきたらすぐ捕まるだろう。


それでも長い廊下を走り、何度も緑のボタンを押して扉を開き進む。こんなに走ったの事が今まであっただろうか?


50メートルぐらい走るとやっと建物の外にでることが出来た。


建物の前の少し雑草が生えている。


俺は平地に転がり仰向けに倒れ込む。息切れがして、心臓が早鐘のように打っている。


しばらく苦しくて動けなかったが、だんだん落ち着いてくると、空は雲一つない晴天なことに気付く。


上半身を起こして辺りをみると、のどかな昼下がりのようであった。


「結局誰も追いかけてこなかったし、誰もみかけなかったな」


別に歩いて出ても良かったのかもしれない。苦笑している俺。


ここはどこだろう?意外と隣町くらいかもしれない。


通りに出たら人に場所を聞いて、電車かバスで二つか三つ行けば、おそらく家に帰れるだろう。あ、でも今は金がないからタクシーを拾って、到着した時に親に料金を支払ってもらうことにしよう。


早く帰ってフェンタグレープを飲みながら、だらだらとゲームがしたい。


あの装置の中の出来事はきっと夢だったんだろう。そうに決まってる。


なにが異世界だ。そんな非現実的、非科学的な事があってたまるか。



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