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生まれ変わらない光男

暖かいここはどこだろう?


フワフワと俺は浮いているようだ。


目を開いてもぼんやり灰色の世界しか見えない。


そうか眼鏡を掛けてないからか。


めがね、めがね。


小さな手が少し動いた。


駄目だどこに置いたかわからない。


普段なら探さなくても手元にあるはずなのだが。


まあいいか起きてからで。


とても心地が良いから二度寝しよう。


日曜朝のアニメまでには目が覚めるだろう。


そして今日は何のゲームをしようかな?


また眠りに落ちようとしたとき、ふとおぞましい女の顔が脳裏をよぎる。


「ゴボッ。ゴボバ。ゴキブリおんな」


少し気泡が上がる。


どうやらここは水中のようだ。


たしか俺の部屋に現れたゴキブリ人間顔女が俺の頭にこん棒を振り下ろして、それから覚えていない。


俺は死んだのか?


いやまてよ。これはもしや。


俺は転生してしまったのではないのか?


そうに違いない。今は生まれる前なのだ。


俺を憐れんだ神の御心が奇跡を起こしたのだ。


二度目の母様の体内で健やかに俺は育っている最中なのだ。


前世からの記憶を引き継いでいるぞ。やった。


俺はすぐに想像した。


両親に誕生を暖かく迎えられ、愛情をたっぷり注がれ、イケメン少年になり、若い女中に性的な手ほどきを受けている様子を。


サポート的なかわいい女神的な感じの娘もすぐに現れるはずだ。


しかし時間が過ぎていくばかりで何の変化も出来事も起こらず、相変わらず俺の周りの世界はぼんやりしていた。


たまに目の前で何かが動いていて、それが何か分からないのがもどかしかったが、だんだんと俺の視界は良好になっていき、目の前で動いているものの正体に気づく。


背の低い小太りの中年男が俺を覗き込んでいるのだ。


俺は今、新しい世界に生まれる所なのかもしれない。


きっとママは難産だったのだろう。


しかし、いつまでたっても水の中だ。中年男はどこかに行ってしまった。


俺は劇的な誕生を期待していたのに肩透かしを食らった気分になった。


「ステータスオープン」と叫んで何も出ないことを確認し、ふて寝した。


目が覚めると、いつもの中年男性が俺を覗き込んでいた。顔をよく見ると、俺より幾分かブスだった。


まさかこれがパパなのか?この顔が遺伝したら転生後の俺の人生も絶望的ではないか。


いや。きっとこの人は近所のおじさんだ。それに俺のママは超絶美人に違いない。


自分に言い聞かせる俺。


あれ?変だな。俺はママの体の中にいるはずでは?


なんでいつも近所のおじさんの顔が見えてるんだ?


ママは近所のおじさんと不倫していて、ド変態プレイをしているのではないのか?


俺はだんだんと不安になってくる。ママはきっとゲテモノ好きなんだ。


そしてステータスが出るのは生まれた後だろう。


間違いない、と決めつけて俺は眠りに落ちる。



もうあれから何日経ったのか。俺の誕生はいつなんだ?


そう思いふと下を見ると、思っていたよりずっと自分の体が成長してることに気が付く。


もう胎児ではなく、赤ん坊ですらない、五歳児ぐらいの体ではないか。


なんだこれは?一体どういうことだ?


俺の周りは濁った水で満たされていて見通しが悪かったので、ずっと母親の体内だろうと勝手に思い込んでいたのだが、良く見ると俺が居る場所は成人男性が入れるくらいの広さがある。


目の前には横長の小さい窓が一つ据え付けられていた。


ここから覗き込んでいたのか、あのおっさんは。


五歳児になった俺はようやく状況がつかめてきた。


しかし、新しい両親は俺の誕生を祝福してくれるのではなかったのか?


そして少年の俺は女中とイチャイチャ。いや、まだ俺が美少年ならチャンスはある。そうに違いない。


鏡だ。早く俺の顔が見たい。目の前の窓に顔を近づけ、「かがみー」と叫ぶ俺。


水の中なのでボエーという不鮮明な音にしかならない。


白衣を着ていつも様子を窺っていた中年男性が俺を見て「ジーラ姫が持ってきた奴隷は生きがいいな」と言った。


それからさらに何日か過ぎて俺は絶望していた。


自分の体をまじまじと見て「体に毛が生えてきてるじゃねーか」


一体いつになったらここから出られるんだ?旬が過ぎてしまうだろ。


かわいい女中との性的イベントは外せないと思っていた俺は、自分が入っている装置をガンガン足で蹴りだす。


「またか」


白衣を着た中年男が窓越しに動いてる様子がチラチラ見える。


一体何をしているんだ?窓に顔を近づけ、外を見ようとする。


俺は急に力が抜け眠気に襲われた。白衣の男は鎮静剤か何かを投入したのか?


意識が無くなっていく中で、


もうどこかの名家に俺が生まれてくる設定には無理がある。


俺はこの中で二度目の生を終えるのかもしれない。それは嫌だ。


眠りに落ちて行った。



そして次に目が覚めた時、俺はもう死にたくなっていた。


自分の体が馴染みのある姿になっていたからだ。


腹は出て剛毛、きっと尻の穴の周りも凄い事になってるだろう。


食生活の乱れと運動不足で肥満になった所まで再現されているのだ。


「それはおかしいだろ」


ガチャンという機械音が聞こえ、装置に満たされていた水が下の排水溝から勢いよく流れ出ている。


顔が空気に触れる。


一体何日ぶりだろう?


いや水の中でどうして生きていられたんだ俺は?


というか以前はどうやって呼吸していた?


そう考えると急に苦しくなりパニックになる。


喉の奥からからピューッと勢いよく水か出てきて、肺がゴボゴボ音を鳴らし、なんどもむせては水を吐いて苦しむ。


しばらくしてようやく普通に空気が吸えるようになった。


「あー死ぬかと思った」


装置の前方の扉がゆっくり開き


「大丈夫だよ。これで死ぬ者はいないから」


いつも窓越しに見ていた中年男が目の前に立っていた。


「筋肉に負荷を与え続けていたから歩くのは問題ないはずだよ」


中年男が持っていたガウンを俺に着せてくれた。


「歩いてみて」


俺は二、三歩前に歩く。


以前より力が落ちているのを感じるが体の動きに問題はない。


「そこの椅子に掛けてくれ」


中年男はクッションが付いたベンチを指さす。


そこに座って一息入れた俺は、自分の入っていた装置をぼーっと眺める。


胎児の時、意識が芽生え、以前の記憶が甦り、転生後の妄想ばかりして最後は絶望に終わった。


全てが夢だったような気がした。


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