光男死す
「私わー。ウンガブンガ王国の第一王女ジーラですぅ。あなた様、大蒜光男様に申し上げますぅ。私の夫になってもらえないでしょうかー?」
「あなたみたいなゴキブリ人間顔の女は絶対に嫌です。他を当たって下さい」
俺は即答してやった。
「カンナアアアア」
背中に背負ってたこん棒を手につかみ振り上げる。
画面に向かってこん棒を振り下ろす。
何度も何度も。
ドガッドガッドガッドガッ
ディスプレイがちょっと動いてる。嘘だろ?
「あ、あのカンナさん?まさかだけどディスプレイ画面から姫が出てくる事はないですよね?」
「それは有り得ないですね。私たちの世界から異世界に行けるのは一人だけと決まってますから。姫は画面の中、私はここにいますからそれぞれ定員オーバーです。
「それは良かった」ホッと胸をなでおろす。
「でも光男様、本当に婿に来て下さらないのですか?姫様いい子ですよ」
「どこが?いきなりこん棒で殴り掛かってくるのがいい子なんですか?」
「あれはツンデレですよ」
ないわー。
ティスプレイ画面にヒビが入ってるので、もしかして姫が出てくるのではと俺は気が気でないが、これはあくまで画面の中の演出であろう。
「側室を持てますよ」
カンナさんが俺の耳元で囁く。
俺は慌てて「王女の婿に行くのに側室はないでしょう。俺が王様というわけじゃないから、血を残す意味もないし」
「いえ。愛人という意味です」
はっきり言うカンナ。
「私なんか全然及ばないピンクビキニアーマー隊の皆さんは美形で粒ぞろいです。この世界のアイドルグループみたいなものですね。光男様の好きな娘を指名することが出来るでしょう。それも何人も」
俺のような駄目ニート引きこもりブス人間が愛人を侍らすだと?
しかもカンナさんだってすごい美人なのに?それ以上?
ピンクビキニアーマー隊だって?
その甘美な響きだけで股間がおっきしてしまう俺。
いや、いかんいかん。
異世界なんか何が待ち受けてるかわからない。
国を出るだけで価値観も文化も違うのに異世界なんて危険すぎる。
そもそも俺は家の外にも出られないニートなのに絶対無理に決まってる。
それに気になるのは…
「カンナさん。異世界にはどうやって行くんですか?」
「それはちょっと。私の口からは言いかねますね。姫様にお会いいただければわかります。
「いや、あのゴキブリ女に直接会ったら俺は気が狂って死んでしまうでしょう」
「ガンナ゛ーガンダーーガバデーー」
画面の中の姫は大きな叫び声をあげ、画面を叩き続ける。
ドガッドガッ
「ああ姫様お顔がすごいことに」
ゴキブリ女がどす黒い悪魔のような顔になってた。
「こっわ」
これは絶対トラウマになるだろう。
「バサシドーガバデーーガンダー。ガバデーー」
「え?なんて?」
「私と代われカンナって言ってますね」
「代われってどういうことですか?」
すっごい嫌な予感がする俺。
「オバエかえったた゜ら許さねえ。こん棒でまじブッコロス」
「姫様そんな。怖い事言わないで下さいよー」
「ヵわっだらゆるすてやるけー。早ぐ代わでーーーー」
「私も命が惜しいので、光男様申し訳ありません」
「え?なんで謝るの?」
カンナは何かを取り出す。
右手を上げる。
そして光るカンナ。
数秒後にカンナが消えた。
そして騒々しい凶悪なゴキブリ女は?
ディスプレイを見ると画面の中のゴキブリ女も居なくなってる。
もしかして帰ったのか異世界に?
そうだ。
そうに違いない。
これは夢だったんだ。
いやそうじゃない気もするが、そういうことにしないと、もう俺の精神がもたない。
まだ気持ちが昂っているが直ぐに気持ちを切り替えようとする。
ゲームも元に戻ってるか?尻ASSサムを起動してみる。
おお普通に出来るぞ。もうゴキブリ女はいない。
小一時間ほど敵を撃ち、ケツを掘って遊ぶ。
次は直腸ハザードをしてみようか。
ロードすると普通のゾンビ共しか出てこない。ゴキブリ女はいない。
よし、もういないんだ。
あれ?大統領の娘アスリーはビキニアーマーなんて着てたっけ?
カメラをアスリーの正面にして顔をアップにする。
「違う。これはカンナさんじゃないか!」
俺は思わずカメラ設定をローアングルにしてビキニアーマーを下から見ようとした。
顔を横にしてディスプレイを下から覗き込む癖も相変わらずだった。
カンナさんは画面をゲシゲシ蹴って少し離れた所に移動する。
「くそ、このじゃじゃ馬め」俺は思わず呟いてしまった。
主人公が護衛する対象兼サポートキャラのカンナさんは
「光男さん気を付けて」
「光男さん気を付けて」
と繰り返し叫んでいる。
ゾンビなんかどこにもいないぞ、カンナさん。何に気を付ければいいんだ?
「光男さん気を付けて」
そうさ。もうわかってるんだ。この後何が起こるか。でも俺は考えない。
精神が破壊されないように俺はいつも通りやるだけだ。
ゲームをセーブした。
さっきPCデスクの下の奥に押しやっていたTENGAIを取り出してPCデスクの上に置く。
そしてお気に入りのエロゲを起動する。
俺は読みが当たっていれば、カンナさんはこのエロゲのキャラになっているはずだ。さっきの姫のようにな。
左手はTENGAI右手にマウス。
それが俺のやり方。
胸が高鳴る俺。
やばい興奮してきた。
お気に入りのシーンをロードする。
「やったぞ。ビキニアーマーは本当にあったんだ」
天空の城みたいな感じで言う。
そしてゲームのカンナさんはベッドに横たわり。
カチカチ
「光男さん大好き」
カンナがビキニアーマーを脱ごうとする。
いいぞカンナさん。
「ああ。光男さん後ろ」
カチ
なに?カンナさん後ろからがいいのかな?
カチ
「光男さん逃げて」
カチ
「光男さん後ろ」
カチ
「後ろ」
カチ
「後ろ」
カチ
俺はだんだんイライラしてくる。
「いいから。それはもういいからカンナさん」
「後ろ」
「光男さん後ろ」
俺だってもう後ろに誰がいるのかわかってるんだ。
だから、せめてカンナさんの裸を拝んで俺は死ぬ。
カチカチカチカチカチカチカチカチ
怒涛のクリック。
脱ぎそで脱がないカンナ。
カチカチカチカチカチ
二枚絵を交互に見せて、カンナは胸アーマーをカパカパやってるだけ。
カチカチカチカチ
また肩当て着だした。
「わざとやってんのかこの女?」
じらすカンナにキレた俺はキーボードクラッシャーのようにバンバン鉄槌打ちでキーボードを叩いた。
バンバンバンバンバンバン
「あ゛ーーーー」
やばい時間が無い。ホントにもう時間が無いんだ。
バンバンバンバン
「早く脱げやカンナあああ!」
そう叫んだ次の瞬間
ドッガーーーン
目の前のディスプレイが粉々に吹っ飛ぶ。
あと1分、いやあと10秒あったならカンナさんの裸が見れたと思うのに…
俺は諦めて振り向いた。
現実世界に現れた三メートル級のゴキブリ人間顔女がこん棒を振り上げてうんこ座りしていた。
俺はそれを見上げている。
「光男様は私のものだかんね」
振り下ろされるこん棒。
ボゴッ
最初の一撃で俺の頭はスイカのようにかち割れたという。
ボゴッボゴッボゴッ
部屋中血だらけに。
ボコッボゴッボゴッボゴッ
俺の部屋は、いつまでもこん棒の音が鳴り響いていたという…