ビキニアーマー隊カンナ
俺の目の前に居る赤いビキニアーマーを着たお姉さんが話し始めた。
「流石、姫様が選んだ殿方ですね。私がいる事に気づいておられたとは」
「いや、あの。ちがうんです」
ほとんど裸のようなエロいお姉さんのどこを見ていいのかわからない俺は足元ばかり見ていた。
そしてニート生活で醜くなった自分の姿を見られている恥ずかしさで、隠れてしまいたい気持ちで一杯だった。
何か言わねばと思い
「ええと、これは、不法侵入というやつじゃないんですかね?」
「あっ」と言って頭を下げるビキニアーマーのお姉さん。
「失礼しました。私は姫のサポートをしているカンナという者です。姫と光男様の様子を窺っておりました」
「いやそうではなくて」
俺ははっとする。
「え?姫って誰ですか?」
「画面の中からあなたに熱い視線を送っていた御方です。あれが姫です」
あのゴキブリ人間顔女が姫で、ゲーム世界からこちらを見ていた?
俺は背筋が凍りつく。
「そんな馬鹿な!いくら何でもそれはその、あのその信じられないです」
俺はエロいビキニアーマーをチラ見して急に言葉が尻すぼみになった。
「姫はあなたに一目ぼれしたようです」
「えっ?そんなあ。嘘だあ」
膝から崩れ落ちる
「怖いこと言わないでくださいよおー」
泣きそうだった。
しかし俺はすぐに頭を切り替え
「もうあなたが姫でいいじゃないですか?ねえ、可愛いし、そういうことにしてくださいよ。ねえ」
「どうしました光男さん?」
ビキニアーマーのお姉さんは俺を見て驚いるようだ。
俺はいつも自分が精神的にすごく弱いと思っていた。
ストレスで精神が破壊されるかもしれないという恐れで、気持ちの切り替えが超早くなった。
いつも嫌な事は無かったことにして、楽しい事を妄想するようにしていた。
「光男さん、光男さん」
カンナさんが俺を揺すり呼び掛けている。
「あ、ああ?何の話でしたっけ姫様」
「いや、私が姫様ではなく、画面の中にいる御方が姫様だと申しましたよね」
「あのゴキブリ女どうやったらぶっ殺せるんですかね?マグナムよりこん棒が強いなんてあり得ますか?」
「とにかくパソコンを立ち上げて下さい光男さん」
カンナさんは埒が明かないと思ったのか、俺をPCデスクの前の椅子に座らせた。
電源を押してパソコンを起動するとデスクトップ画面になる。
ん?見たことないアイコンがある。ゴキブリ女の顔だ。
何も言わず俺はアイコンをゴミ箱にドラッグ&ドロップする。
「それじゃあ私が選んだゲームを立ち上げて下さいね」
カンナさんが後ろから俺の両肩にポンと両手を置いた。
「おっおぅ」俺は変な声が出た。
柔らかくてしなやかな手だ。女子の手が俺の肩に触れている。いつ以来だろうか人に触れられるのは?
俺の体の感覚が鋭くなる。
俺の肩越しにデスクトップ画面を見ようとするカンナさんは
「私は目が悪くて小さい文字が良く見えないんですよねー」
俺の右肩の上からカンナさんの顔が前に出て来くる。
「おおっ」
生唾を飲む。
近い近い。こんなに接近したら素肌が触れちゃうぞ。
「これなら見えますね」
カンナさんは顔をディスプレイ20センチくらいの距離まで近づけた。
お顔が小さい。それにカンナさんから何かすっごい、いい匂いがするー。
触れられてるのは俺の肩だけであったが、カンナさんの肌はほとんど露出してるので、俺の首筋にほんのり暖かさが伝わってくる。
ああーやばい。ぞわぞわして鳥肌が。
ふと机の上を見るとTENGAIが乗ったままだ。
左手で取って下に落とす。
それを見えない所に足で押しやる。
「何か落ちましたよ?」
「いえ、いいんです。ゴミですから」
「じゃあ、このゲームを起動しましょうか」
カンナさんはディスプレイのゴキブリ女の顔アイコンを指さす。
さっきゴミ箱に捨てたのにいつのまにか復活してるー。
くそ、アンインストールすべきだったか。
俺は慌ててカンナさんに話しかける。
「いやいや。そのアイコンは危険ですよ。他のゲームにしましょうよ」
俺のマウスを持つ手にカンナさんの手のひらが、やさしく重なる。
「だめですよ。ゲームの好き嫌いは」
いたずらっぽくカンナさんが笑う。
マウスの動きがカンナさんにリードされている。
すげー手が柔らかい。
俺の右手から手汗が噴き出してくる。
なんだこのプレイ。あー力が抜ける。もうどうでもいいや。
カーソルはゴキブリ女の顔の上に。
カチカチというダブルクリックで、「バーーーーン」という効果音が。
ディスプレイ正面を向いて腕を組み、真横を見てるゴキブリ人間顔女がブルーバックを背景にして立っていた。
実写のようなタイプのCGでリアルなゴキブリ女が描写されている。
リアルの方がもっとこえーと俺は思ったが声には出さなかった。
「あ、姫様」とカンナさんが画面に向かって呼び掛ける。
………
しばらく無言が続く。
「あ、あの姫様?いかがなさいましたか?」
痺れを切らせたカンナさんがもう一度画面に呼びかける
「遅かったじゃないの…カンナちゃん」
ボソッとゴキブリ人間顔女が呟く。
「ああーしゃべったーー」
と俺は、けものアニメの様に大げさに驚いて見せた。
「で?殿方はいるのかしら?」
チラチラとこっちを見ているゴキブリ人間顔の女。
「何で殿方とそんなに接近してんのよカンナ?」
カンナさんと俺がいちゃいちゃしてると勘違いしたようで、ゴキブリ女のこめかみに血管が浮きあがってくる。
「あんたなにやってんのよカンナ?」
「いや違うんです。姫様」
慌てて俺から離れるカンナさん。
「目が悪いとが嘘言って色をつかってたよなオメエ」
ドスを利かせる姫。
「そうではなくですね姫様。私の話が光男様にはぐらかされるものですから姫様から光男様に直接話していただこうと思いまして、こういった場を設けさせていただきました。私だって頑張っているんですよ姫様」
言い訳のような、諭すような感じで姫に言うカンナ。
「なによ。何のためにあんたを連れてきたのよ」
ぶつぶつ言う姫。
「姫様から光男様に思いを伝えてください。勇気をだして。大丈夫です。頑張って」
カンナが両手をグっとする。
しばらく考えていた姫だったが
「ええそうね。あなたの言う通り。やってみるわーカンナ」