暗殺のパープル
そして力が抜け俺はベッドに倒れた。もう何もする気が無くなった。
「あら光男くん。朝からベッドでだらだらしてちゃあ駄目よ」
そう言って掃除が終わったおばさんは部屋から出て行った。
駄目だ。この拘束具が付いてる限り俺は何もやる気が出ない。
俺は疲れていたのもあって夜まで寝ていた。
夕食を食べにダイニングに現れない俺を心配してか、カンナさんがノックして部屋に入って来た。
「大丈夫ですか光男さん?最近ご活躍だったから疲れてるのかもしれませんね」
それが嫌味か何かなのかを考える気にもならない。
「俺の股間の拘束具を外してくださいカンナさん。最近気づいたのですが、拘束されてるのが俺の本体なんです」
「本当ですか?」
「…」
そんなわけあるか。
「私は拘束具を外すように大王様に申し上げたんですが、その拘束具を外すと光男さんが大王宮から必ず逃げると仰ったのです」
するどいな大王。まさにその通りだ。結婚式前に俺は必ず逃げるつもりでいた。しかしこの拘束具をつけたまま一生過ごすのは嫌だ。
「言い忘れてましたが結婚式前に光男さんのお披露目パーティが開かれるのです。王族の方々や、世界の要人がメルガバとの和平を提案した光男さんを一目見たいという事で決まりました」
俺の心臓がキュッとなる。
「等身大パネルとか用意して下さい。影武者とか。俺は絶対にそんな所に出ていったりはしませんからね。そもそも俺をこんな所に引っ張り出したのはカンナさんなんだから何とかしてください」
俺はみっともなく狼狽える。
「パーティに出てこないと拘束具を一生外さないとゴルダバ大王様は仰ってました」
俺は頭を抱える。
「ああーー」
どうせこれもゴルダバ大王の嫌がらせの一つなんだろ。しかもフォーマルな格好にこの貞操帯つけて出たら、俺はただの一物が異常にでかい奴ではないか。
「カンナさん。この股間でパーティに出ろと?」
「もちろんパーティ直前に外すそうですよ」
「うう」
「大丈夫ですよ光男さん。光男さんは宇宙放射線で喉がやられて話すことが出来ないという設定にしておきましたから」
「話さなくてもいいんですか?」
「はい。会場に居てくれるだけでいいんです」
「ああ。それなら少し安心だ」
ほっと胸を撫で下ろす俺。
でも人がたくさん来る所に行って注目を浴びるのは嫌だなあ。
「仮面とか被って出たら駄目なんですか?」
「そういったパーティではないので駄目ですね」
カンナさんは「それでは宜しくお願いします。食事もして下さいね光男さん」と言って部屋を出て行った。
「はあー」と深いため息を付く。
俺はやはり拘束具が付いてるままではやる気が出ない。そのままベッドに横になりまた眠りに落ちる。
眼が覚めると次の日の朝になっていた。強烈な空腹で目が覚めた俺はダイニングが開くと同時に中に入って朝食を食べた。
朝食分をすぐに平らげ追加注文していると、カンナさんが部屋に入って来た。
俺を見てすぐ「光男さん痩せましたね」と言った。
カンナさんは俺のトレーナーみたいだなと思いながら追加注文の料理を食べた。
すると部屋にもう一人ビキニアーマーを着たお姉さんが入って来た。
パープル色だった。
おばさんがエリートだと言っていたパープルビキニアーマー隊のお姉さまだ。
俺はじっくりと観察する。
ピンクビキニアーマーのお姉さま方のようにグラマラスでも無いし妖艶さも感じない。
清楚な感じだが、オーラを醸し出しているような気がする。一体どんな性的超絶技を持っているんだろうか?
俺はドキドキしながら舐めるようにパープルビキニアーマーのお姉さんを見ていた。
カンナさんが隣に座り「光男さん。あの娘が気になるんですか?」
「はい。紫のビキニアーマーなんて初めて見たものですから」
俺はとても自然な答えをしていた。
カンナさんは俺の近くに顔を寄せ小声で話す。
「パープルは暗殺部隊ですよ」
「ええ?まさか」
「本当です。光男さんもパープルには気を付けて下さいね」
カンナさんはダイニングを出て行った。
ボー然とする俺。
するとパープルのお姉さんは立ち上がり、カウンターの方に歩いて行って
「おばちゃん。紫芋のパフェ頂戴。パープルビキニアーマー隊だけに」
くるっとこちらを向き、俺を見て銃を撃つポーズをしてニヤリとした。
何故俺を見る?まさかその距離で今の会話が?嘘ですよねお姉さま?
俺はダイニングを飛び出し、掃除のおばさんにパープルビキニアーマー隊について、もっと詳しく聞こうと急いで自分の部屋に戻った。
勢いよく扉を開けると、ビキニアーマーを着た掃除のおばさんが前かがみで床のゴミを取っている。鬱蒼とした下ヘアーが丸見えだ。
よかった。まだおばさん帰ってなかった。
「おばさん。昨日言っていたパープルのビキニアーマーの事なんだけど」
俺の方を見たおばさんは
「光男くん。元気になって良かったね。おばさん心配したわよ」
「あの、パープルビキニ」
「パープル?ああ昨日の話?エリートの人達ね」
「暗殺部隊というのは本当なんですか?」
「あら。そんなことを誰から聞いたの?」
「ええと知り合いからなんですけど、本当にそうなんですか?」
「暗殺も仕事の一つなのよ。ゴルダバ大王が決めるのよ番号を」
「番号を決める?」
「サービスと殺す番号。殺す番号を掛けて来た時は、その人は間違いなくパープルに殺されるのよ」
「こっわ」
「重要なのはターゲットが自分の居場所を自分で話してしまう事なの。最初がサービスで次が殺しというのもよくあることね」
「何でおばさんはそんなに詳しいんですか?まさかあなたは?」
「そんなわけないでしょ。私の娘がパープルなのよ。ダイニングで見かけたでしょ?」
「ええ?さっきの紫いもパフェの娘が?」
「あの娘は手技で全国二位だったのよ」
「手技?何の?」
「さあ何でしょうね」
そう言っておばさんは部屋を出て行った。この世界には知らなくてもいい事があるのかもしれない。




