(第57回)日常
やれやれ無断リリースはお咎め無しだったので、これでしばらく平和だよね。だよね
無断リリースについてはお咎めなしなので、日常が戻ってきた。最近は顧客も慣れてきたのかクレームや問い合わせがほとんど発生しなくなった。これが日常になる、と思い始めたのは運用開始から一ヶ月ほど過ぎた時期である。いつものようにエースと電話番をしていると懇意にしている警視庁の警部から電話が来た
「はい設計課長です。警部、何かありましたか」
「そうですね、多忙なので用もなく電話はしませんよ。今朝方痴漢予備者のアラームが鳴ったのですが、困ったことに与党の幹部議員です、今国会開催中なので例え証拠があっても逮捕できないと思います。どうすれば良いでしょう」
「うーん、プロの警部がそうおっしゃるなら素人の私に名案があるはずないでしょ」
「それは百も承知ですが設計課長はこれまでも数多くの修羅場をくぐってきているので何とか助けてくださいよ」
「ええ、確約はできませんが検討して、案が有ったらすぐに電話する、で良いですか」
「ああ,勿論それで結構です。連絡お待ちしてます」と電話は切れた。
私はエースに事の顛末を話し
「何かいいアイデアないかな?」と打診したが彼はにべもなく「ありません。」と即答
藁にも縋る思いで営業課長と並木さんを連れて事業部長室で相談した。
事業部長は開口一番
「ここで良いアイデア出せれば警視庁に大きな貸しができるね」と嬉しそうに言った。営業課長は
「しかし、中途半端な案で逮捕できない上に先方を怒らせちゃったら親会社含めていじめられますよ」
「そっかあ」
並木さんは「動かぬ証拠を手に入れるか、犯行現場の映像を入手できれば勝ち目はあるんじゃないですか」
「そりゃそうだけど、犯行現場って、まさか囮を使うってこと」
「ぶっちゃけ自分の案は、懇意にしているパートナー社員にAV女優顔負けのお色気女性が居て、結構いたずら好きなので頼んだら誘惑位してくれるかなって思ったんですけど。ダメですよね」
皆が黙りこくっていると
「案外ありかもね」と事業部長「設計課長、その警部さんの連絡先教えてよ。本人に案の〇✖を判断してもらおう」というのでしぶしぶ電話番号を教えるとすぐさまコール。事業部長があらましを伝えると
「うーん囮捜査は違法ですが現行犯ならいけるかもですね。その女性と直接会話できますか。我々の指示通りに進めてくれる人ならお願いしようと思います」と、これが本日の結論
その場で並木さんが件の女性に相談すると「是非やりたい、警察に全面協力する」と言ってくれたので
次に所属会社の営業責任者に連絡して対応可否と可の場合の費用見積もりを明日までにくれるよう依頼した。警部には本人乗り気、会社間調整中で明日中に回答する旨連絡し。本日は終了。
うーん平和には違いないけど、結構危ない橋を渡りかけている気がしてきたなあ。所属会社が断ってくれれば、ある意味平和なんだけど