(第34回)勝負どころ
さて、急に前方が開けてきた本件をいよいよ社内幹部に方針打診することとなった。幹部の機嫌が良ければ良いが・・・
翌日、自分は事業部長室隣の大会議室に居た。
画面にはリモート参加の社長はじめ役員が全員揃っている。極度の緊張でおなかが痛くなってきた。
最初に事業部長の発声
「本日はお忙しい中、全社開発経過報告会に参加いただき誠にありがとうございます。成果を上げているのはここにいる設計課長ですが、これまでの経緯を私がかいつまんでご説明いたします。」
事業部長の説明が終わると、早速社長がコメントした。
「なるほどよくわかりました。さすが事業部長。わかりやすい説明で、想定外の事件発生や対処の様子が手に取るように理解できましたよ。しかし最後の囮捜査の刑事さんが実は本物の痴漢という仮説は県警幹部に申し上げて大丈夫ですかねえ。そこを見誤ると大きな受注どころか当社が長期間にわたって指名停止や出入り禁止になったりしませんか?
これは想定していなかったようで、ちょっと慌てた事業部長は
「確かにご指摘の懸念が有りますね。営業部長はどう考えてますか?」と話を振った。
「ハイ、その点につきましては昨日お電話で県警本部長に報告申し上げて、ご了承いただいております。
どうやら被害者役の婦人警察官は、その後も犯人役の刑事から食事の誘いなど来ており、やんわり断り続けているがついに上司に相談したということで、先方も設計課長と同じ疑念を持っているようです。
「おお、そうですか。じゃあ県警も当社提案は渡りに船ですね」
「いえ、正式には明後日県警本部に訪問して、警備部長様に正式提案した後となりますが、好感触と思料いたします。
「わかりました。では事業部長の計画通り進めてください。専務、常務に依存が無ければ」
社長がここまで言ってしまった以上、ご両所も異論を唱えようが無い。結局自分の提案通り進めることになった。
おお、営業部長のおかげで乗り切った!でも、いかにも自分が県警本部長に電話したような報告だったが、実際は先方から事前にどんな話を持ってくるのか聞かせろと詰め寄られて、自分の案をそのまま説明した結果である。しかし例の刑事はやっぱりしょうもない奴だなあ