9 結構話し込んだ
「なるほど、森で襲われていたフクロウを助けたらそれが精霊で、なついたから、そのまま一緒に過ごしていると」
「はい」
一通り話し終えると、マイさんはうんうんと頷いた。
それから少し考えこんだと思うと、パッと顔を上げた。
「考えても仕方ないか」
「え」
一人で満足した後、そうだ、と付け足した。
「フォゲット君、この店で働かない?」
「いいんですか?」
それは願ってもないことだった。
師匠からいくらかの資金はもらっているが、それもいつかは底を尽きてしまう。その前に、自分でも稼げる場所を見つけたかったが、その悩みもなくなった。
内心で喜んでいると、マイさんが驚いた顔をしていた。
「え、働くんだよ?」
「はい」
「いやじゃないの?今まで働くとか、そういったことに触れたことないでしょ?」
「はい。けど、頑張ります」
そう言い切ると、マイさんは驚愕した顔のまま、額に手を当てた。
「ほんの冗談で言ったんだけど」
「そ、それでも手伝わせてください!」
すると、マイさんが立ち上がっていった。
「じゃあ、店の経営は後で説明するから、今は私の知り合いに会ってもらおうかな」
「なんでですか?」
「それは...はは...」
マイさんは目をそらしながら乾いた笑いを漏らした。
不審に、不思議に思い、見つめると、今まで沈黙を保っていたミーナットが言葉を発した。
『きっとやましい気持ちがあるんだよ』
「ち、違うわ!」
ミーナットの言葉に反論しながら、口ごもったマイさんは、観念したのか肩を落として言った。
「実は、私ひとりじゃ不安だし、いつかは出会うと思うし、そもそも誰かに行った方が気が楽になるから...」
『つまり?』
「つまり、一人は厳しい」
そう言い切ったマイさんに対して、ミーナットが体当たりをしようとしていたので、宥めて止めておいた。
そういうものなのかなと思い立ち上がる。
フードをかぶり直しマイさんに近づくとドアノブに置いた手をそのままにこちらを向いた。
「そういえば、いつもフードかぶってるけど、何でなの?」
「えっと、町では目立つから、隠した方がいいって」
「へー」
さほどたいしたことではないように返事をした後にドアを開ける。昨日と同じような太陽の明かりが眩しい天気。それよりも眩しいマイさんの笑顔が見える。
「いつかは顔、見せてもらうから」
「今からでもいいですけど」
「え、せっかくかっこつけたのに」
『こういう時は...無様』
「は?」
他愛のない話をしているのが、楽しくて、僕は知らぬ間に笑顔になった。




