6 一日の終わり
連れてこられた店の二階は、やっぱりというか、あまり掃除をされていないというのが分かるぐらい埃が積もっていた。店の商品と同じなので、掃除が苦手な人なのだろうか。
『汚い。掃除してないの?』
「うっ、いや、してはいますけど、使ってない部屋はしてなくて...」
「大丈夫ですよ!僕たちで何とかしますから...」
どうやらここに住まわせてくれるらしいが、ミーナットが不満そうにしている。
マイさんのことが苦手なのもあると思うが、さすがに注意した方がいいのだろうか。
「えーと...何か足りないものがあったら言ってね」
そう言って、部屋を出ていった後には僕とミーナットが残った。
もう一度部屋を見渡す。
少し汚れた机と椅子。机の上にはランタンが置いてある。歩けば埃が舞い、ベッドには毛布が一枚敷いてあるだけだ。それだけの、最低限の家具を置いたような部屋だが、あまり嫌という感じはしない。
『ねえ、こんな部屋でいいの?』
「うん。住まわしてくれるだけ感謝しないと。それよりもさ」
ベッドに座りながらミーナットに問いかける。
「マイさんのために、何か作りたいんだけど、何がいいかな」
泊めてくれるばかりか、師匠の弟子という身近な人だったことも判明したため、少しでも印象を良くしたいのだ。しかし、喜びそうなものが何なのかわからない。
初めてあった人だから、仕方のないことだが。
考えるが、何も浮かばない。
ミーナットはすぐにあきらめ、部屋の埃を飛ばしている。
「あ、そうだ」
そうつぶやくと、ミーナットがパッとこちらを向き、戻ってくる。
『何を作るの?』
「回復薬を作ろうと思ってるんだけど、どうかな。店にも置けるから」
『いいんじゃない?わかんないけど』
そうと決まればと行動に移す。
ポーチからいくつかの薬草と瓶を丁寧に取り出す。それらを埃の積もった机の上に置き、杖を構え、意識を集中させる。
杖の先が青白く光り、薬草がみるみるうちに姿を変え、混ざり合い、液体へと変化する。宙に浮いた液体を、それぞれ用意していた瓶に入れ、ふたをする。
「これでよし」
いくつかできた回復薬を割れないように布でくるみ、大切にポーチの中に入れる。代わりに本を取り出す。
部屋の明かりを消し、ランタンに火をともす。そして、そのわずかな明かりを頼りにして、本を読み始める。
『あ、その絵本よく読んでるけど、面白いの?』
「うん。それと、文字の読みの練習も含めてかな」
恥ずかしいが、文字が少ししか読めないのだ。それで、師匠から簡単な本を何冊かもらっている。
少しでも早く文字を覚えたい。
この本の内容は、二人の子供がたくさんの仲間とともに世界を救うという物語。
読んでいると、寝息が聞こえ、ミーナットが寝ていることに気づいた。それに微笑みながら本を閉じ、毛布をかぶる。
「おやすみ、ミーナット」
こうして、あわただしい一日は幕を閉じた。




