24 獣人の村
少しさびれた村が見え始め、僕はもう一度フードを深くかぶる。遠くから見える村の人々は、皆何かしらの動物の特徴を体に持っている。目的地に無事に到着したらしい。僕は心を落ち着かせるため、深呼吸をする。
師匠の後ろに隠れ、村の様子を見る。
困窮しているのではとも考えたが、村人たちはそういった様子も感じられず、平穏な生活を送っている。しかし、この裏では悪事が働いているのだ。気を引き締めなければ。
「いいかいフォゲット。このまま村に入るけど、本格的に行動するのは明日からだ。その前に祠の場所を探ってほしい」
「わかりました」
手筈通りに、というように動き出す。
コチアさんが来るまでは村で待機し、合流してからはミーナットと僕は別行動だ。
師匠らが村長と話している間に僕が祠の位置を確認し、可能であれば魔法陣の性質を変化させる。ミーナットはその間、怪しい動きをしている獣人を見つけ把握する。そういう手筈となっている。
これからの動きを思い出しながら、僕らは村に足を踏み入れた。
外に出ていた獣人の人々のほとんどは、僕らを見て蜘蛛の子を散らすように離れていった。残った人々は遠巻きに眺めていたり、物珍し気に近づこうとする子供を家に入れたりしていた。
歓迎されていな様子があからさまにわかる。向けられる視線には、憎悪と嫌悪が混ざっている。
いたたまれない気持ちで進んでいくと、数人の獣人が前に立ちはだかった。皆、目をぎらつかせて僕らを見据える。その一番前にいた獣人が話し始める。
「失礼。王国の魔術師がこの村に何の用ですか」
「……この村の村長でしょうか。私たちは、コチア様の命令できました。あなた方と友好を結びたいと」
睨まれ、じっと見つめる。一人一人値踏みするように見られ、おじけづきそうになるのを抑えて相手を見つめる。
「その子供もか?」
「はい。こちらの子も、村の調査のために来てもらっています」
「よ、よろしくお願いします……」
ふんと鼻を鳴らされる。完全になめられているのだろうが、ミーナットが不機嫌になってしまうのでやめてほしい。すでに睨み返している。
腕を組み、話を聞く気がないことを態度で示している村人たちに、困った様子になる。
「書状はきてはいるが、そう簡単にあなた方を信用できるとでも?」
「こちらとしては、信用よりも先に、話を聞く姿勢が欲しいのですがね」
「はぁ?喧嘩売ってんのか?」
獣人の村長は師匠に詰め寄り、威圧をかける。
僕は怖くなり、師匠の後ろに隠れる。
「いいか、俺たちは現状で十分だ。差別の目がどれだけあろうとも、偏見は消えないし、白い目で見られ続ける。ここがだめなら、魔族領に行くだけだ。今更距離を詰めようったって無駄――――」
「―――何の騒ぎですか」
パッと声の聞こえた方を見ると、馬から降りたコチアさんが近づいてきていた。
その姿を見てホッとするが、村長たちは嫌そうな顔をして舌打ちをする。そして、師匠を置いてコチアさんに近づく。
先ほどのように圧をかけられても動じず、服を整える動きをする。その様子を鼻で笑われる。
「出来損ないが、いい暮らしをさせてもらってるようだ。野良だったとこを拾われて満足か?」
コチアさんは煽りに乗らず、ふうと息をつく。
「……僕は今、王子としてここに来ています。もっと有意義な話し合いをしましょう。家は空いているんでしょう?」
眉間にしわを寄せ、わなわなと震える村長は、もう一度舌打ちをして背を向ける。見るからに不機嫌な足取りを見て、コチアさんがこちらに来る。申し訳なさそうな顔だ。
「すみません。ここの村の大人は全てこのような感じなので、気を悪くさせてしまいましたね。よそから来た人とは話をしたがらないので」
「いえ、大丈夫ですよ。来てくださり助かりました」
「はは、――では、行きましょうか」
申し訳なさそうな穏やかな顔が一瞬のうちに真剣な顔に代わる。
これから、どのような話し合いがあるのかはわからないが、僕は僕にできることをするだけだ。
「フォゲット。ミーナット。頼みましたよ」
「はい!」
ここからは別行動だ。自分の考えで動き、問題を排除しなくてはならない。
師匠たちの背を見送って、僕は住民に話を聞けないか動こうとする。きた道には祠のようなものは見えなかったということは、反対方向か。
ミーナットも動こうとする。
「あ、待ってミーナット」
『ん?何?』
「これ持って行って」
魔石を渡す。ミーナットはそれを器用に足でつかむ。
「使い方はわかるよね」
『うん』
「頑張ってね」
『うん、そっちもね』
ミーナットの役目は、怪しい動きをする村人の調査だ。出来れば話も聞いて、どのようなことをしようとしているのか探る役目もある。
飛んでいくミーナットを見て、僕も動き始める。村の近くということは、村の中ではないことは確かだ。
いったん森の中に入ろうと思い、誰も見当たらない村の中を歩く。その途中、家の窓から視線を感じる。よそ者がここにいることが嫌なのだろうか、汚らわしいのだろうか。
僕はその視線をぐっとこらえ、森の中に入っていった。
それでも、そんなに簡単には見つからないもので。
探す場所が悪いのだろうが、どのくらいの距離にあるのかも分からないため、しらみつぶしに探すしかない。時間がかかりそうだと思う。
(いったん戻ってから、どうしよう)
そう悩んでいると、近くの茂みが動いた。
「え!?」
慌ててそちらを見ても、何も見えない。
何かはいるのだろうが、姿を現そうとしないそれに怯え、杖を構える。いざとなったら魔法で対処しなくては。
じりじりと近づいて、茂みを観察すると、動物の耳がちらりと見えた。
それが何なのか確認する前に、急に飛び出してきた。
「わあ!?」
「ばれたー!」
「あんたが動くから!」
「何でこいつについていくんだよー!」
「外からの人よ!?気になるに決まってるじゃない!」
そこから現れたのは、三人の獣人の子供。男の子二人と女の子だ。
あまりのことにびっくりしている僕に、女の子が跳ねながら近づいてくる。
「ねえあなた、王都から来た人?」
「え、そう、です」
「えー!すごーい!」
キャッキャと嬉しそうにする女の子に目を丸くさせて、瞬きをする。後ろの男の子二人は、やれやれといった様子で見ている。
「王都ってどんなところ?大きくてきれいで、すごいところ?」
「あ、そうです……家がいっぱいで、店がいっぱいあって、城が大きくて……」
「やっぱりそうなのね!」
キラキラと目を輝かせている女の子の勢いに困惑していると、男の子の片方が、コラと言って女の子を僕から引きはがす。
「困ってるじゃん、やめてあげなよー」
「だって、王都の人よ!気になるじゃない」
「あのー……お二人さん……」
そのまま言い合いに発展しそうな二人を止めようと声をかけるが、それは意味をなさずそのまま言い争い続ける。
彼らをおいて動くこともできないしどうしようと思っていると、もう一人の男の子が僕に近づいて来る。
「ごめんねー。あの二人、犬猿の仲だからさ」
「いえ、大丈夫です」
「あと、王都に憧れを持っててさ、大人に止められてるから、より熱中し始めてて」
「へえー」
「そういや、君は何しに来た人?」
そういえばというように言葉をかけられる。同じくらいの子供だから、話しかけやすかったのだろう。そこで、僕は祠のことを考え、彼は知っているのだろうかと思い尋ねてみることにした。
「僕は、村の調査で……このあたりに祠があるって聞いたんですけど」
「え!?あの祠は近づいちゃだめだよ」
驚いた様子でそう言った男の子に、他の二人も話に混ざってくる。
「あそこに近づくのは、大人から止められてるんだよ」
「絶対に近づくなって言われてるの。耳にタコができちゃうくらい!」
あまりの迫力に、好奇心が勝つ。村人が知っているほどのものに、何があるのか。
僕はつばをのんで、言葉を出す。
「そんなに、危険な物なんですか?」
三人は顔を見合わせ、うなずく。僕は、その答えを聞く姿勢を取る。
「あそこには、神様がいるんだよ」
次の投稿は数日かかるかも!
楽しみにしててください!!




