21 教会の神父
次の日、マイさんにはまた出かけるということと、数日帰ってこれないことを伝えた。それもこれも獣人の村に行くことが決まったせいだが、マイさんは大泣きで駄々をこね始めてしまった。というのも、僕らと一緒にいた時間があまりにも楽しすぎて、昨日半日会えなかっただけで寂しい思いをしたとのこと。
それだけ僕のことを思ってくれているのはありがたいが、逆に今までどうやって生きていたのか。謎が深まる。
『うざ……』
あまりのことに、ミーナットもあきれ返った。いつものことかもしれないが。
すぐに帰ってくるからとなだめて、ひとまず教会へと行くことにした。それを伝えるとついていくと言ってきたので、必死で止めた。
「マイさんは今日も元気だなあ」
『ああいうのはうざいっていうんだよ』
出かける前に、必要なものを確認する。杖をもって、ポーチに昨日作った物たちを入れ、フードをしっかりかぶる。午後から出発するらしいので、それまでにやるべきことをしなければならない。
今日のミーナットは人の姿だ。知らない場所にパッと見人一人で行くのは危険なので、このような形で向かうことになった。さすがに誘拐などは起きないだろうが、変な人に絡まれることがないようにだ。
支度を終えた僕らは、現在教会へと向かっている。
教会は、距離的には城の貴族街近く、それでいて平民街からも比較的近く、城壁近くという、なんとも絶妙な場所に建てられている。公平性を保つためだろうか、それにしても行きづらいとこだなと思う。
しばらく歩いていると、やっとそれらしい建物を見つける。
「あ、あれかな?」
木に囲われた白く、荘厳な建物の外で、数人の修道士が子供たちと遊んでいる。
間違いなく、ここが教会だろう。
『ね、早く行こ』
「待って、ミーナット」
入るのをためらっていると、ミーナットが僕の手を引いて敷地に入っていく。そんな僕らを見かけて、修道士たちが笑顔で近づいてきた。
「あら、初めまして。礼拝ですか?それとも懺悔しに来られた方ですか?」
「えっと、僕たち、パティエンスさんに会いに来て……」
『レアンから紹介されてきたんだよ!いる?』
そう言うと、少し意外そうな顔をして、呟いた。
「あの人、知り合いいたのね……」
「?」
「なんでもないですわ。こちらにおられます」
そうして、教会の中に案内され入ると、見かけによらずきれいな内装で、礼拝に来たであろう人々が椅子に座っていた。
その真ん中に立っている、ひときわ目立った存在感を放つ男性。彼が、パティエンスさんなのだろうと、一目でわかった。
案の定、案内してくれた修道士は、その男性の前で止まった。
「パティエンス様。客人がおられます」
「―――何ですか?何の用で」
神父服に身を包み、藍色の長い髪をひとくくりにした男性。彼は不機嫌そうな顔を隠そうともせず、見下ろしてきた。冷たい緑の目に捉えられ、少し怯えていると、ミーナットが僕の前に出て彼をにらむ。
ただ、それも一瞬のことで、彼は視線を修道士のほうに向ける。
「レアン様からの紹介できたと……」
「……わかった。君、いったんついてきてくれ」
「え、はい!」
ついていくと、懺悔室についた。
パティエンスさんは僕に対し、そこに入るように促す。
僕らが入るのを確認してから自身も入っていく。
「――で、名前は」
「あ、僕はフォゲットです」
『僕はミーナット!』
「はあ……宮廷魔術師の弟子と精霊が何の用だ」
「え!?」
僕らのことを言い当てられて、驚く。なぜ知っているのかという疑問が湧き上がる。
「あいにく、俺は暇じゃないんだ。要件を早く言え」
先ほどとは打って変わってガサツな態度になって、戦慄する。豹変の仕方が急すぎる。
やはりこの街には、少し変わった人が多いのかもしれない。
『やっぱり変な人じゃん……』
「喧嘩ならよそで売ってくれ」
相変わらずけんか腰のミーナットに、少しだけ心が落ち着く。少なくとも、悪い人ではないはずだ。それに、僕らのことを知っているほど、情報通だということなのかもしれない。師匠が推薦するだけある。
いったん深呼吸をして、僕は前を見据えた。
「獣人の村で怪しい動きがあると聞いたんですが、知っていることはありますか」




