19 ダブル帰宅
城から帰ってきた僕たちは、いったん別れることとなった。時間はもう昼を過ぎており、太陽がまぶしい。
師匠は、支度などがあるからと、いったん森の家に帰るとのこと。その間に、獣人の村について少しでも情報を探っていていほしいと頼まれた。
マイさんの店の前まで戻ってきた途端、勢いよく店のドアが開いて誰かが飛びついてきた。もはや、誰かなんて見なくてもわかる。
「お帰りいい!私が起きるより早く行くなんて寂しかったよおお!」
「マイさん……ただいま」
目にもとまらぬ速さだったはずだが、ミーナットは間一髪で僕のもとから離れて師匠の肩にとまっている。しかも、二人してマイさんを冷たい目で見ているため、やや気まずさを感じる。
「あのーマイさん……」
「よーし、今日は休んで一緒に遊ぼっか!」
僕以外眼中にないのか、僕の肩を組んだまま店に入る。そのあとに続いて入ってくるなんとも言えない表情の二人。ミーナットはもうタックル寸前の態勢だ。それを師匠は手でいさめて、前に出る。マイさんはまだ気づいてないのか、僕に向かって話しかけ続けている。
冷や汗が止まらない中、ついに師匠が声をかけた。
「?フォゲット君どうしたの?」
「────どうやら、教育が悪かったようですね」
「え?」
背後に立った師匠を見て、固まる。なんとなくこの後の展開が読めたので、僕は慌てずマイさんの腕の中から抜け出し、師匠の隣に立った。
先ほどが天国なら、今は地獄か。マイさんは冷や汗を滝のように流し、硬直している。何だったら目が泳いでいるし、最終的に僕の方を見て助けを求めている。だが、こうなってしまった以上、師匠は止めれない。なぜなら怖いから。
「私に会えなかったことがそんなにもうれしかったのですね。自由になった気分はどうですか?」
「え、あの、えー、お久しぶりですね……」
「ええ、そうですね」
重たい空気が店を包む。つられて緊張していると、ふっとミーナットが下りてきた。とっさに抱えると、師匠が打って変わっていつもの優しげな眼で僕を見つめる。
「あなたたちは疲れたでしょうから、部屋で休んできなさい」
「あ、はい」
「あのー、私は……?」
「あなたはこれから話があります」
「はいい……」
マイさんを見捨てるようになってしまい、申し訳ないと思いながら駆け足に部屋へ戻る。この後のことは想像に難くない。何だったら、僕もされたことがある。そう思っていると、ミーナットがくすくすと笑う。
『可哀相なやつ。滑稽すぎて笑えるよ』
「もう。そんな意地悪なことは言わないように」
『はーい』
部屋のドアを開け、中に入る。すると、途端に力が抜けて、ベッドに倒れこむ。
『大丈夫?!』
「大丈夫。思ったより緊張してたみたい。緊張が解けたのかな?」
心配そうに近付いてきたっミーナットを撫でる。そうすると、嬉しそうに目を細める。
つられて微笑みながら、ベッドに横になる。
(疲れたなあ)
横になった途端、眠気が襲い掛かってくる。仕方がないのでひと眠りしようと思い、目を閉じる。それに気づいたのか、ミーナットも寄り添って寝る態勢に入る。
僕らはそのまま、眠りについた。
「────はあ。まあ、あなたのことは今に始まったことではないですね」
「すみません……」
「せめて、フォゲットの前では馬鹿な真似はしないように」
「はい……」
時間をたっぷりと使って怒られたマイは、すっかり縮こまってしまい、しょんぼりしている。さすがにもういいだろうと考えたレアンは、右手を飾る装身具を杖に変化させる。青い魔石が輝く杖を持ち、地面を数回叩く。
「え、お師匠様?まさかとは思いますけど、私を消そうとか……」
「するわけがないでしょう」
ホッと胸をなでおろすマイに、いつまでたっても変わらないなと逆に安堵する。マイのこの性格は逆に好感が持てる。好みはやや偏るだろうが。
レアンは少し考えて、マイを見る。
「私は帰りますが、フォゲットに伝言を頼んでもいいですか?」
「あ、はい!なんでもござれ!!」
「何ですかその喋り方」
微笑み、杖に魔力を通す。この店に来た時のように、地面が光りだす。
「情報に困ったら、協会に所属しているパティエンスという藍色の髪をした男性のもとに行きなさい、と」
それだけを言い残し、レアンは光に包まれてあっさりとその姿を消した。あとに残されたマイは、しばらく言葉を反芻して、ふらっと紙とペンを取り出し書き留める。そこから、しばらく動かず頭の中でぐるぐると思考を動かす。
そして、急に復活する。
「お師匠様、元気だったな」
空を見上げる。空と言っても、天井が見えるだけだが。
「でも説教は違くない!?もういい歳なのに!!エルフを何だと思ってる!?」




