16 王宮へGO
師匠を見た業者の人たちは、少し驚いた様子で、同行を許可した。
初めて乗った高級な馬車は、驚くほど快適だった。僕はその馬車の中で、師匠から礼儀作法を簡単に教えてもらっていた。そして、大きな城の前につく。あまりにも大きく、見上げてもてっぺんが見えないほどだ。それほど大きく、近い。
なお、ミーナットは精霊という特殊な条件なため、騒がずじっとしていればよいといいつけられている。今日は一日フクロウの姿だ。
迎えの兵士が数人やってきて、此方ですと案内を始める。師匠の隣に並んで歩くが、王城は見たことの無い高級そうなものばかりがあり、緊張は高まるばかりである。思わず師匠を見上げると、あまりにも堂々とした姿に少し緊張が解け、深呼吸をする。
その様子を知ってか、ミーナットが小声で耳打ちしてくる。
『そんなに緊張しなくても、レアンが何とかしてくれるよ。もともと王城に仕えてたって話だし』
僕はそれに、言葉の代わりに笑顔で返事をする。ミーナットが隣にいると考えるだけでも少し緊張が和らぐが、師匠がそばにいるのだ。ミーナットの言う通り、そこまで緊張する必要もないのかもしれない。きっとこうして呼ばれたのも、師匠とのつながりを誰かが知って僕を呼んだのだろう。そう考えることにした。
そう思い始めるとだんだん周りが見えてきた。余裕ができたのだろう。
無駄に長い廊下を抜けた先に、大きな扉が待ち受けていた。ここが玉座の間なのだろう。息をのむ。
その大きな扉が開くと、玉座に座って待ち構える王様がこちらを見下ろしていた。
なんてことないかのように歩みを進める師匠の後に続いて入ると、後ろで扉が閉まる。そのまま前へ進み、膝をつく。そのまま、王の言葉を待つ。
何を言われるか。心臓をどきどきさせながら待っていると、声をかけられる。
「らくにしてもらっていい。急に呼び出したのは私の責任だからな」
顔を上げると、親しみやすい顔で笑顔を作った王様が僕らを見ていた。その視線が師匠のほうに向く。
「それにしても、隠し子か?そなたがなぜ急に宮廷魔術師の座を退いたのかと思ったが、そういうことか」
「違います」
「冗談だ」
はははと豪快に笑う姿にあっけにとられ、目を丸くする。王様とはこんな人だったのかと、今までの認識などを改められた。何だか、緊張していたのがばからしいほど。
師匠も何だか呆れたような顔で、ミーナットも同じような顔をしていた。いや、ミーナットのほうが呆れと蔑みを感じる。厳しさで言ったらミーナットのほうが強いだろう。
そんなことを思っていると、王様の視線が僕の方に向いた。
「君。名前は?」
とっさに振られ、慌てて回答する。
「ぼ、僕はフォゲットと言います。それで、こちらがミーナットです」
「ほう。君のことは少し聞いたよ。確か───錬金術師、なんだってね」
その瞬間、空気が変わった。全身がひりつくような、鋭い視線が全身を刺す。冷や汗が出そうなほどであり、値踏みされている感覚が襲う。ミーナットもとっさに戦闘態勢に入ろうとして王様をにらんでいる。
身震いする初めての感覚に委縮していると、師匠がかばうように口を開く。
「王。その情報はどこからのものでしょうか」
「門の者からだよ。それと、少しの探りを入れてくれた子がいてね」
「なぜこのような手段に出たのですか」
「そうだ。そなたが帰ってきてくれたら、こちらとしては大助かりなのだが、どうかね」
「王。話を聞いてください」
「錬金術師がいるとなれば、わが国も安泰ではないか」
「王」
「そなたには聞いてない」
立ち上がりそうな勢いでまくしたてる師匠を意に介さず、じっと僕を見る。蛇に睨まれた蛙のように身動きができない。答えを僕に聞いている。言葉が出ない。
つばを飲み込む。
「そなた。錬金術師よ。我が国に仕えんか」
僕は、絞り出すように声を出す。言わなければ終わらない。
「僕は────」
瞬間、勢いよく扉が開け放たれる音が響き渡る。
驚いて後ろを見れば、そこに一人の少年が立っていた。貴族の豪華で黒い服をきっちりと着こなした、黒猫の獣人。僕は、その子を見たことがあった。
その場の皆が驚いている中、その子は言い放った。
「何勝手なことしてるんですか!!!!!」




