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14 慣れ始めた日

「今日も頑張るぞー!」

「お、おー」

『うるさい』


 俄然やる気を出したマイさんに役割分担をしようと提案したところ、言うまでもないと話を切られた。マイさんは店に待機で、僕とミーナットは昨日と同じように客寄せしようということだ。

 ミーナットが一緒なのはもちろん、変に絡んでくる人を対処するためである。

 僕は外に出てすがすがしい空を見上げ、よしと気合をこめて声を張り上げた。



 しばらくたった後、休憩ということで近くのベンチで腰を休ませていた。何せ、ずっと立ちっぱなしで声を出していたのだ。さすがに疲れる。

 目の前を横切っていく人たちを眺めながら、これからどうしようかと考える。午後からは自由にしていいよと言われているが、やりたいことも特にない。

 ミーナットと町を見て回ろうかと考えたとき、人ごみの中に見たことのある人影を発見し立ち上がる。

 ミーナットの手を引いて近づくと、向こうも気が付いたのか立ち止まる。


「ワカさん、昨日大丈夫でしたか?」

「ああ、あの後少しの注意をして帰らしたからさ。心配しなくてもいいよ」


 初めて会った時とは違って帽子をかぶっているワカさんは、少し照れ笑いながらそう言った。その言葉に僕はホッとした。迷惑をかけているという自覚があったからだ。

 そんな僕を見たワカさんは、さもなんてことないかのように朗らかに笑って、腰に手を当てた。


「そんな心配しないでよ。子供が迷惑かけることなんて一度や二度だけじゃないんだし」

「でも……」

「でもなんて言わない。私は大丈夫だから」


 不安があったからか、身体が安心している気がする。無意識のうちに気を緩めた。その少しの違いに気づいたのか、ミーナットが手を少し強く握る。


『それで、あなたは何か用でもあるの』


 そう言うと、今思い出したのか、ああと言葉を漏らした。

 少し目を開くことも追加で、そんなに簡単に忘れていいものなのか疑問に思ってしまった。

 そんなワカさんはあははと口をこぼして頬をかいた。


「実は魔石がなくなっちゃってね、買い足そうとしてたとこだよ」

「へーそうなんですか」

『?何それ』

「家庭用魔道具を動かすのに必要なんだよ」


 ふーんとつまらなそうにしているミーナットの頭を撫で、ワカさんに向き直る。


「じゃあ、買い物に行く途中でしたよね。止めちゃってすいません」

「いや、大丈夫だよ。行くのはどうせマイの店だしね」

「え、マイさんの店って魔石も置いてるんですか?」


 思わず驚きの声がこぼれ出る。

 マイさんの店はいわゆる雑貨屋という感じだ。大体何でもそろっている。しかしそれでも魔石までおいてあるのは見たことがない。

 この世ではかなり需要があるので、それを前面に出して宣伝すれば人も集まりやすいだろうに、なぜ言っていないのか疑問に思う。


「知らないのも仕方がないよ。あの子って世間に疎いからね。ほら、あの子ってエルフだからさ」

「ああ、なるほど?」


 確かに、エルフは森の中から出てこない閉鎖的な生活を行っていると教わったことがある。まったく人とかかわらないとも聞いた。

 ただ、そうなるとわからないこともある。


「……思ったんですが、何でマイさんは森を出たんですか?エルフは、一生を森で過ごすと聞いていたんですけど」


 その問いにワカさんが答えることはなく、少しの笑いをこぼすだけで言った。


「直接聞けばわかるよ。あの子って正直者だからさ」


 そんなことを言いながら足を進めるワカさんについて行くと、いつの間にかマイさんの店に戻ってきた。

 ドアを開けようと手を伸ばすと、ドアノブに手が届く前にドアが開いた。

 ドアの向こうから現れたのは黒猫の獣人だった。その猫の獣人は、少しの会釈をしてそのまま去っていった。

 その姿に珍しいと思いながら会釈を返しドアをくぐり抜けると、なぜだかげっそりとした様子のマイさんが現れた。そのマイさんが僕らを見つけると途端に元気を出してワカさんに飛びついてきた。


「ワカぁ!あの子超怖かったんだけど!不愛想で!ずっと不機嫌そうで!」

「はいはい、頑張った頑張った」

「流されてる!?」


 若干の涙目になったワカさんが狙いをこちらに定める。そして案の定こちらにも飛びついてきた。


「何なのあの客!どうせ友達なんていないに決まってる!」

「まあまあ、落ち着いてください」


 そう言って駄々をこね続けるマイさんを僕とワカさんの二人で慰めるのは、飽きたミーナットが駄々をこねるまで続いた。

めちゃくちゃ放置していてすみません。これからは定期的に更新します。

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