13 初めてのお客さん
「ただいま、お客さん来ましたよ」
「まじ……んん、いらっしゃいませ!」
お客さんに対して笑顔で接待をするマイさんに、一人だけでも連れてくることができてよかったとホッとする。
一歩踏み出そうとすると、いまだに人の姿をしているミーナットが飛びついてきた。
『おかえり!大丈夫だった?変な奴に絡まれたりしなかった?』
「絡まれはしたけど…大丈夫だったよ」
『どんな人。今から殴りに行く』
「だ、だめだよ!」
今にも飛び出していきそうなミーナットをなだめる。
特に何かされたわけでもなく、ただ少し突っかかってきただけなので問題はない。相手は初日に絡んできた大柄の男性だが、それを言ったら火に油を注ぐ様なものでミーナットを止めることがほぼできなくなるだろう。またミーナットに殴られる事態は回避しなければ。
生き生きとした様子で商品の説明をしている声を聴きながら言う。
「本当に大丈夫だから。ワカさんに助けてもらったから」
『へ~意外』
数分前のことだが、まさかワカさんがかなり知名度があって相手がおじけづくとは思わなかった。普通、公衆の面前で土下座をするとは思わないだろう。
しばらくは記憶に残るだろう。
そんなことを考えていると、ちょうどお客さんを見送ったマイさんがこちらに突進する勢いで近づいてきた。だがミーナットが間に入ってマイさんを止めて抱きついてきた。
「ううぅ…いや、うん。お客さんが来てくれてうれしいし感謝してるけど、さっきの会話が気になりすぎる」
『ワカが思ったより強いって話』
「フクロウには聞いてない。人の姿のほうがフォゲットに抱きつけてお得だって言ったらそのままでそわそわ待ってたくせに」
『へえ?さっきいきなり失礼な質問をしておいて勝手に後悔してどうやって接しようかって悩んでたのにそんなこと言えるんだね』
「忘れて…」
楽しそうだなと特に心配するでもなく眺めていると、マイさんが気まずそうに外へと視線を向ける。あからさまに目を背けているとわかるが、何かがあったのだろうか。そんなことを思っている直後、意味の分からないものを見た顔をしてマイさんが固まる。そしてそのまま勢いよく扉を開けて外に出る。
一連の行動をただただ眺めていると、マイさんのひときわ大きな声が響き渡った。
『ワカ、なん、なんで土下座させてんの!?』
『げっ、ちが…私がやらせたんじゃなくて、こいつが私を一目見て勝手にしだして………』
『そんなことある?!』
『知らん!青髪の子に絡んでたから声を掛けたら急に謝り始めて土下座したんだよ!』
『わけわからん!……あと、名前フォゲットだけど、忘れてた?』
『あー、うん。そうだっ、いや、ワスレテナイヨ』
賑やかにワイワイ言い合っている声がかなり聞こえる。内容が分かるぐらいには聞こえる。
さすがに帰っていると思っていたのだが、かなり頑固なのか。少し同情する。もちろんワカさんにだが。
結局この日は、帰ってきたマイさんが後からやってきたお客さんを相手にして終わった。しかし、マイさんのやる気が目に見えてわかるぐらいわいていたため、 明日からはもっと頑張ろうということになった。




