12 店の経営
フードをかぶり直してマイさんの店に戻った後、簡単な店の説明をしてもらった。それでも、一言程度で終わるものだが。
「客が来るまで商品整理して待つ。以上!」
なんともざっくりして、単純な説明なのだろうかと逆に感心する。それと同時に、かなり適当に店をやっていることが大体わかってしまう。
ワカさんの言葉が今なら大体わかってしまう。
苦笑をこぼし、どうしようかと考えていると、やはりというべきかミーナットが口を開けた。
『雑だね』
「うぐっ」
『そんな調子でどうやって経営していたのさ』
「うぐぅ!」
容赦ない追撃に、止めたほうがいいか考えるが、マイさんも本気でやっているわけでもないので大丈夫かと心の中で思う。
もしや店の経営は好きでやっていることではないのかと思ったが、杞憂だった。
「だって初めて店をするからわからないんだよ」
『計画性がない?』
「はい……」
意気消沈したマイさんに慰めの言葉をかけようと考える。
とりあえず上げた行き場のない手をあたふたと振り、こぶしを握る。何を言えばわからず、思いついたことを口に出す。
「元気出してください…!えっと、僕、客寄せしてきます。ミーナット、一緒に行こう」
『うん!』
「あ、待って」
マイさんに一人の考える時間を取らせようと勢いよく外に出ようとした足を止める。
ちょいちょいと手を振って呼び寄せるので数歩近づくと、ミーナットをちらちらと見ながら気まずそうに言う。
「あの、えっと、ちょっとミーナットと話したいことがあるんだけど、フォゲット君が言ってる間、いいかな?」
『いや。フォゲットを一人にしたくないし』
「そこを何とか…!」
「いいよ、大丈夫。ミーナット、心配しなくていいよ」
そこまで言うと、しぶしぶといったようにうなずいた。
肩から降りてパッと人の形をとる。そうするとよけいに心配しているとわかる。僕はそんなミーナットの白茶色の髪を撫でる。
「本当に大丈夫ですよ。まったく、師匠もそうですけどミーナットも心配しすぎです」
『うん…』
手を離すと少しだけ名残惜しそうにするのが申し訳なく、微笑む。
できるだけ早く帰ろうと心の中で誓う。ミーナットをあまり悲しませたくない。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。というかそうか、精霊だから人の姿もとれるのかすごい」
いろいろと聞きたそうなマイさんの熱のこもった視線を流す。できるだけミーナットから聞いてくれればいい。それで熱が少しは冷めてほしいと思いながら外に出た。
「さて、聞きたいことがあるんだけど、というか増えたんだけども」
『早めに終わらせてよね』
「無理かも」
マイは急に人型になったフクロウ、もといミーナットを見る。レアンから渡されてとりあえず読んでいた本の中に精霊に関するものがあり、そういうものだと理解していても、実際見るのとは違うのだと実感した。
この精霊についても聞きたいことが山ほど、とまではいかないがある。だが、優先度で言えばもう一人、フォゲットのほうだと結論付ける。
「まず最初に聞いておきたいことがあるの」
あの不思議で少し大人びていて謎の多い少年で、本来使える人はもういない錬金術を使う。そんなことはいずれどうでもいいことになる。それでもフォゲットはフォゲットだから。
目をつむる。レアンからの手紙で書かれていた内容を思い出す。そこに書いていた、まるで世間話のようにあった衝撃的なことをマイは口に出す。
「フォゲット君が記憶喪失ってホント?」
それを聞いたミーナットが、少し不機嫌な顔をしてマイをにらみつけたのを見て、お師匠様のおふざけなんかではないと理解した。




