1 森を抜けた先で
森の中を、あたりに注意しながら進む。
師匠が持たせてくれた地図を頼りに歩いていると、空から一羽のフクロウが飛んできた。
「お帰り。どうだった?」
『大丈夫だったよ。魔物もいないし安心して』
使い魔のミーナットからの報告を聞き、満足げにうなずく。代わりに頭をなでると、幸せそうに目を細めて喜んでいる。
「もう少しで森を抜けると思うから、おとなしくしててね」
『わかった』
そう言うと、ミーナットは肩のほうへと飛んできた。
よし、とつぶやき、そのまままっすぐ突き進むと、遠くに開けた場所が見える。いや、森がそこで途切れているのだ。
興奮して走り出すのをぐっとこらえ、一歩一歩、確実に進んでいく。そして、森の外へ一歩踏み出した。すると───
ザアッと風が吹き、かぶっていたフードを揺らす。森の中ではチラとしか見えなかった太陽が、全身を見せている。
森を出たのだと実感するのと同時に、いてもたってもいられなくなるほどうずうずする。
「これからどうなるんだろう。楽しみだね」
声をかけても返事はなく、見てみると、目を閉じて休んでいた。
邪魔をするのも悪いので、そのままそっとしておく。地図の通りなら、すぐ近くに町があるはずだ。
僕──フォゲットの冒険は、今始まったのだ。
町の門の前に来ると二人の兵士がいた。
そしたら身分証を見せてくれと言われた。
持ってないと言ったらマジかと言われた。
驚愕した顔で、作ってやるから来いとどこかの部屋に連れてこられた。
そして今、身分証を作るために、準備している最中です。
(師匠はなくてもいいって言ってたけど。森にいすぎて忘れちゃったのかな)
用意された椅子に座って待っていると、水晶玉のようなものを持って、門にいた兵士が近づき、差し出してくる。
「えーと...それじゃ、この鑑定玉に手をかざしてくれ」
どうやらこれは、手をかざした対象の名前や年齢、今の職業などが映し出されるらしい。それに加えて、犯罪を行ったことがあるかなども出てきて、犯罪者かどうかを判断するためのものでもあるらしい。
手をかざすと光り輝きぼんやりと文字が浮かび上がる。
見たこともない現象に、目を輝かせる。
「ミーナットみて。すごいよ」
そう語りかけると、今までつむっていた目を開けて、目の前の光景に目を向ける。
『すごい!どうなってるんだろう』
二人して目を輝かせてみていると、兵士がミーナットのことを見て言った。
「そのフクロウ、喋れるのか?」
その言葉にどきりとした。
そういえば、他に人がいたんだったと思い出すのが遅すぎた。
どうしようと考えていると、兵士は先ほどの鑑定玉に目を向けて、ああと呟いた。
「使い魔か、珍しいな。しかも喋れるとは。まあ、詳しくは聞かないから安心しな」
ホッと息をつき、人がいる間は、ミーナットに語り掛けるのはやめておこうと思った。
そんなことを思っていると、兵士がカードを持ってきた。
「特に問題はなかった。これが君の身分証だ」
「あ、ありがとうございます」
渡されたカードは、自分の名前と作られた場所の名前が書かれていた。
これでようやく町に行けると思っていると、兵士が鑑定玉に書かれた僕のことについてみている。
もういいかなと、椅子から立ち上がろうとする。すると、兵士が複雑そうな顔をしていた。
「ま、待ってくれ!」
兵士の顔は青ざめていき、口をパクパクと開けている。声がうまく出ないのだろうか。
少したってから、心を決めたのか、震えた声で言った。
「君は、錬金術師なのか?」




