3.小さな改革
早速私は行動に移した。
まず、私の部屋にあった煌びやかな服は出来る限り売った。どうせサイズも合わなくなるんだし、幼少の服なんて最低限でいい。
身の回りの世話はメイドがやってくれるので、両親がわざわざ服の在庫を確認したりしない。私が一番信頼できると感じたメイドを味方につけ、彼女に売ってもらう。
最初こそ驚かれたが、将来のためにお金を貯めたいとか我ながら陳腐な言い訳をしてなんとか頼み込んだ。
そして、売ったお金を資金源に、今度は別のメイドに頼んで、キュイの食事や衣服を揃えた。
大きくは動けない。両親に頼み込んで待遇を良くしてもらうことも考えたけど、裏で何をされるか分からないからだ。
そうして一年もの間、コソコソとキュイの部屋や待遇を改善していった矢先、たった今両親にバレたところである。
天井から万華鏡のようにキラキラと光り輝くシャンデリアが垂れ下がり、前世では縁のなかった高級な家具が並ぶ広い応接間。休日はこうして3人でお喋りをするのが日課なのだ。父は私を膝の上に乗せ、困り果てた声色で私に言った。私の前には母もいて、こちらも複雑そうに眉を寄せている。
「フィアナ。あの子のところにいってご飯や服をあげていたそうだね」
「はい……お父様。ごめんなさい」
「ああ、いや、フィアナが謝ることじゃない。だけど、金輪際そんなことはやめなさい」
「どうして駄目なの?」
最早私の必殺技となった上目遣いで父を見上げる。父はますます眉を寄せた。面倒だな、というのが表情に出ている。
「それは……」
「ねぇお父様」
私はすうっと息を吸った。ここが正念場だ。ここで失敗すれば未来はない。
「この前、私がお父様に言ったでしょ?うちの領地に住む人たちはお金がないって聞いて、なんでってメイドのリアルに聞いたら、税っていうものが高いからって」
「ああ、あのことか。フィアナの助言のお陰で、うちは豊かになった。フィアナは凄く賢いな」
父は私の頭を嬉しそうに撫でた。
要するにうちの領地の税率を隣の領地よりも低く設定する。そうして人を呼び込むことで結果的に税収アップにつながるという手法だ。
8歳児がこれを考えるのも、それを聞いた親が実行するのもなんだかおかしい気がするが、そこは転生補正と親馬鹿補正がかかっているものとする。
私は笑顔で言い放った。
「あれね、兄様が考えたの」
「は、あいつが……?」
父は怪訝そうな顔をする。
実は、父は決してキュイに消えてほしいわけじゃない。それなら、妾と共にとうの昔に追い出していたはずなのだ。
父としては、キュイは唯一の一人息子として家を継ぐ為にキープしているが、他の男との子供なのが気に入らず、こうして酷い仕打ちをするに至っている。
冷酷で狡猾な父は、基本的に人間は価値があるかないかで判断する。つまり、少しでもキュイにさらなる利用価値があると判断すれば、私からのおねだりも込みで待遇は改善するはず。
一種、ここは賭けだ。
両親に嫌われる覚悟は出来ている。キュイを守らねば私たち全員の未来はないのだ。
「そう。私はね、兄様が考えて言ったことを父様に伝えたの。上手くいってよかったわ。兄様は本当に頭がいいのよ」
「……そうなんだな」
「だからね、お父様。私からのお願い」
瞳をうるうるさせて、私は上目遣いに父の顔を見た。最近はこれを多用しすぎてメイドには効かなくなってきているのだが、両親への効果は衰えることを知らない。
「兄様の鎖を取ってあげて」
「それで、どうするんだ?」
「兄様は頭がいいから、もっといろんなことを知れば、もっともっと良いアイデアを思いつくと思うの。だから、鎖を取ってあげて、書物とか、書くものとかを部屋に用意できないかなって。お父様、よく考えて。兄様は利用価値があると思わない?」
父の共感を得たいからといって、この言い方はちょっと酷かった。キュイへの罪悪感で押し潰されそうだ。
父は弱冠8歳の娘の恐ろしい発言に少し面食らっていたが、にこりと裏のある笑みを浮かべた。上手くいったらしい。
……キュイ、ごめんなさい。




