表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦槌《ウォーハンマー》の 大主教《アークビショップ》 が  無双します!  作者: 日傘差すバイト
第一話 『戦槌の上級神官《アークビショップ》』
1/46

『戦槌の上級神官《アークビショップ》』



ほの暗い森の中で。


とある冒険者の青年が危機に瀕していた。


青年が相対するのは、堅牢で重厚な装甲を持つ、巨大なムカデの魔物だ。


無数の節足で、気色悪く這いずり回る大蜈蚣。

そいつが、長大な体躯を鞭のように使って襲い掛かってくる。


そのたびに、青年は、迎撃するべく、握る大剣を振るう。


しかし。


がきり、と硬い感触が青年に伝わり、その効果の無さに、失望する。

疲労に満ちた表情をゆがめ、青年は、呟く。


「くっ……最悪だ」


これで何度目だろうか。

幾度トゥハンデッドソードをぶち当てても、硬い装甲に阻まれて有効なダメージを与えられない。

逆に、青年は、疲弊してきている。


さらに、蜈蚣の移動速度は予想以上に速く、逃げるという選択は、多大なリスクになる。


そして、何度も打ち付けた剣は、刃が欠けてきていた。


青年の色々なリソースが、時間とともに削られていく。

その先に見える未来に、青年は必死に抗っていた。


けれど、ついに。


再度、襲い掛かる蜈蚣に、両手剣を打ち付けた時、青年は最大限の違和感を覚えた。


パキリと音をたてて、折れた切っ先が、くるくる、と宙を舞って、地面に突き立つ。

同時に、吹き飛んだ蜈蚣が地面に投げ出された。


ぐるぐると渦を巻く蜈蚣の健在ぶりに、青年はすべてを諦めたようにつぶやいた。


「いよいよ、極まったか」


地面に刺さった剣が、まるで墓標のようだと、青年が失笑し、死を覚悟した時。


青年の耳に。


がしゃり、がしゃり、と金属のリズムが、森の奥からフェードインしてくる。

ここにきて、敵が増えるとあれば、青年は本当に万事休すだ。


しかし。


今、とぐろを巻き、体勢を整えつつあるオオムカデの背後。


真っ暗な闇の中から、少しづつ浮かび上がるのは、化け物などではなく。

小柄なヒトのシルエットだった。


左の手には、十字の刻まれた大きな盾を持ち、右の手には、真紅の戦槌を握り。


青年はその人物が、少女であると解った。


現れた少女は、真っ赤なカソックに身を包み、その上に真っ白な甲冑、頭には、聖職者が身に着ける、帽子が乗っていた。


冒険者であるならば、その帽子の文様で、少女の身分はすぐに解る。


「あれは……上級神官アークビショップ……?」


青年は敵ではないことに安心し、そして折れた己が武器を見て、嘆息する。

例え、助っ人だとして。

今更、回復役が増えたところで、大蜈蚣を倒せるわけではない。

なにせ、青年の大剣はもう使い物にならないのだから。



「おい……!」


青年は、蜈蚣を挟んで対岸に立つ少女に、叫ぶ。

逃げろといおうとして。


だが。


少女は、地面に刺さる剣の切っ先を一瞥し。

ほぼ無傷のムカデを一瞥し。


「軟弱ですね。これだから、刃物は……」


涼やかな声で、蔑むように一人ごちる。



そして――。


少女に気づき、そちらに襲い掛かろうとする蜈蚣に。


「やべっ!」


青年が、駆け寄ろうとした時にはもう遅かった。


その瞬間には既に、オオムカデはくの字に折れ曲がり、砂埃を巻き上げて、地面に叩きつけられていた。


少女の振るったハンマーが命中していたのだ。

少女のハンマーは、道具のハンマーに近い形の、細身のもので。

ハンマーヘッドの反対側が、ピック状になっている、片手用の槌だった。


それが、あれほど堅牢だった蜈蚣の装甲板をひしゃげさせ、その内部の肉をえぐり潰していた。


胴体が千切れそうになるほどのダメージに、のたうち回る蜈蚣に、少女が無言のまま、冷徹に、もう一度ハンマーを叩き下ろす。


それが、トドメとなって、蜈蚣は動かなくなった。


青年は愕然とする。

あれほど苦労した魔物を、ほぼ一撃で屠ったことに。



「お、おい……?」


信じられないという気持ちの中、必死に紡ぎ出した青年の言葉に、少女は反応する。

白金色の長い髪をゆらし、視線だけで青年を見る横顔は、まだ幼く、色白で、可愛らしい顔つきだった。


そのまま、大聖堂に佇んでいれば、女神のようにもみえただろう。

ただ、不可解なのは本来、上級神官アークビショップの制服は青や白のカラーリングなのに、少女は紅かった。


金属のハンマーですら、真っ赤なのだ。


そんな少女は淡々とした声で答えた。


「なんですか?」


「い、いや……その」


「礼なら不要ですよ」


青年の心中を見透かすように、そういうや否や、ハンマーのピックのほうで、少女はムカデの身体から、1枚1枚、分厚く頑丈な皮をはがし始めた。

ぐしゃり、ぐしゃり、とえげつなくも猟奇的で残虐的な場面が展開される。


常人なら、目を伏せる所だが。


冒険者である青年には解る。


少女は、ムカデから『素材』をはぎ取っているのだ。

冒険者組合に売って、お金にするために。


「あんた、冒険者なのか?」


「……いけませんか?」


「いや、そんなことは……」


聖職者ならば、その道の仕事があるはずだ。

怪我人に治癒魔法をかけたり、死霊や不死者の祓魔だったり。

もっと、インドア系の職務なはずだ。

なのに、こんな森の深くまで来て、戦利品をはぎ取っている。

それも、上級神官アークビショップが、である。


まだ見習いの神官が修行のために冒険者に同行したり、神の加護を授からなかった落ちこぼれが、エリート街道から足を踏み外したということでもない。


少女は紛れもなく、上級神官アークビショップなのである。

それは、少女が身に着ける十字架のアクセサリーや、帽子や、その高級で清廉な出で立ちが物語っている。


それも見目麗しい少女なのに。


しかし唯一つ、盾を持ち、槌を持つという点だけが、ちぐはぐだった。


まるでケーキの上に、干し肉が乗っているかのごとき違和感だった。


「しかし、だとしたら、なぜ冒険者を……?」


「簡単ですよ。聖堂での仕事では、ハンマーを振るう機会がありませんので」


 言いながら。

 少女はその場にしゃがみ、剥がした外骨格を、ハンマーでたたいて細かくし、何枚も重ねて、素材用の袋に詰め込んでいく。


 対して青年は言葉の意味が解らずに、返す言葉を失っていた。


「え? ハンマーが……なんだって?」



「解らないなら、良いですよ。無理して解ろうとしなくても」


そして、作業が終わると少女は立ち上がる。

その真っ赤なハンマーを盾の背面に仕舞い、盾を背中に背負い。


少女は踵を返す。


立ち去ろうと、青年に背を向けたあたりで、ふと。


「あなた」


「え?」


突然声を駆けられて青年は驚く。


「次も、つるぎを買うのですか」


脈略もない質問に、青年は返事に窮し、少女は青年が言葉を発するまで待った。


やがて。


「……ほかにどうしろと?」


「別に……軟弱ものには似合いの武器です。次も、苦労すると良いでしょう」




そうして、唖然とする青年を残し、赤い上級神官アークビショップの少女は、森の奥へと歩き出すのだった。







読んでくださってありがとうございます。

そしてもし、面白いと思って頂けたら、ブックマークや評価、感想など、よろしくお願いします。


私の傾向として、反応が薄い場合面白くないのだなーと判断して書かなくなることが多いです。

皆さまの応援をお待ちしてます!



※自分で表紙を描いてみました。


挿絵(By みてみん)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ