怪談「黒いおかあさん」
これは、私が小学生の頃にあったと言われた話です。
あの頃は比較的大らかと言いますか、今ほど規制も危険意識も割とゆるい時代でした。
そんな時代ですから、小学生が外を薄暗い時間に歩いていても、そんなに心配もされない、そんな時代でもありました。
その小学生(A子さん)は、放課後友達と校庭で遊んでた事もあって、少し遅い時間を一人で帰宅していました。
秋から冬になろうかという季節。日もつるべ落としのごとく暮れはじめ、黄昏時の薄暗い中を帰宅していました。
「遅くなっちゃったなあ。お母さんに怒られるかな?今日の晩御飯何かなあ?」
そんなことを考えつつ、いつもの通学路を歩いて帰路につきます。
A子さんの通学路は田舎道で街灯のあまりない通学路でした。っと言っても、道は舗装されているし、田んぼや山道もありますが、途中自販機や民家、電話ボックスなんかもあり、暗いといっても真っ暗という感じではありませんでした。
そんな中を歩いていると、ふと何かの気配を感じました。
「あれ?なんか・・・後ろの方に誰か歩いてる??」
最初は勘違いかな?っと思い ましたが、A子さんが歩くと後ろの方でコッコッコっとヒールで歩いているような、そんな足音がついて来てるのが分かりました。
「・・・こんな時間だけど・・・散歩でもしてる人かな?」
時計がないので分かりませんが、時間は多分17時を回った頃だったと思います。学校はとっくに下校時間を過ぎてるし、この通学路を使う小学生はあまりいません。もしいたとしても、この通学路を通る小学生はA子さんと顔見知りばかりで途中で逢えば一緒に帰ったりする子も多いので、向こうから話かけて一緒に帰ろうっとなるはずです。なのに話かけて来ないと言うことはその可能性は薄く、だったら散歩している人だろう。っと、A子さんはそう納得をして歩いていました。
しばらく歩くと街灯 が近づいてきました、薄暗い中を淡く照らす小さな街灯ですが、その下を潜るとなんとなくホッとできました。
街灯を通り過ぎて、またしばらく薄暗い中を歩きます。相変わらず後ろからはコッコッコっと同じくらいの速度でA子さんの10mくらいをついてくる足音がします。
その時ふと思いました。
「あの足音の人、今後ろを見れば丁度街灯潜るはずだ・・・どんな人かちょっと見えるかなぁ・・」
なにせ薄暗いので、10m後ろを振り返って見ても普通ならなんとなく人が居る程度にしかわかりません。
よし、ちょっとどんな人か見てみよう。そう思うとA子さんは後ろをチラッと見てみました。そして、同時にざわざわっと悪寒が走りました。
丁度街灯の下・・・そこには得体の知れない真っ黒い何かが立っていました。
「kんxかsjk、dlこkkpk!!」
A子さんはびっくりしたのと恐怖とで声無き声を発し、その場を全力で走って逃げました。
走りながらチラっと後ろの見ると、真っ黒いソレはまだ街灯の下に立っているのが分かりました。
「なんだあれ!なんだあれ!なんだあれ!なんだあれ!!」
・・・・しばらく走り、息も絶え絶えになりながら後ろを振り返ると、さっきのソレは追いかけてはいないようでした。
「助かったあぁ・・・・・ でも、・・・このままここを行ったらいずれ追 いつかれるかもしれない・・・」
そんな事を思っていた時、この先の十字路で真っ直ぐ行かずにちょっと遠いけど左を行けば電話ボックスがあることを思い出しました。
「よし、このまま行かずに左の電話ボックスまで行って、お母さんに迎えに来てもらおう!」
そう思い。A子さんは電話ボックスまで一気に走って行きました。
電話ボックスに着き、周りにアレがいないのを警戒しつつ、緊急用に持っていた10円玉を取り出すと、自宅へと電話をしました。
りりりりり りりりりり りりりりり ・・・
ワンコール・・・ ツーコール・・・ スリーコール・・・ 「お母さんはやく出てよ!! ;;」
半ば祈るような気持ちで受話器を手に必死にコールし続け、ようやく母親が電話に出ました。
A子さん「もしもし!お母さん?!」
母「!?A子!何時だと思ってるの!」
A子さん「今変なのがいて。私それで怖くなって!!」
母「?!今どこ!すぐに迎えに行くから!そこを動かないでじっとしてなさい!」
A子さん「うん!わかった!今ね・・・通学路の十字路を左に曲がった先の電話ボックスの所!お母さん早く来て!」
母「・・・・・ワカッタ・・・スグイクカラマッテテ・・・」ガチャ・・ツゥー・・ツゥー・・ツゥー・・
A子さんはそこで一気に血の気 が引きました。
最後の母の声は明らかに別人のソレで、まったく感情の無い無機質な声になっていたのです・・・
「何・・・今の・・・お母さん??・・・違う・・アレ・・お母さんじゃない・・・」
とっくに切れた受話器を片手にボックス無いで座り込んでいると・・
コッコッコッコッコ・・・・・コココココココココココッッ!!
聞き覚えのある足音が凄い勢いで近づいて来ました。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
A子さんは必死になって電話ボックスのドアを抑え、アレが絶対入ってこないように待ち構えました・・・ が、真っ黒いアレは一向に現れません。 と思った次の瞬間!
バーーーーン!!
ドアのガラスが何かに叩かれた様で、A子さんは思わず目をつぶって必死にドアにすがりつきました。
「ムカエニキタヨムカエニキタヨムカエニキタヨムカエニキタヨムカエニキタヨ」
母の声?! いや!違う! そうだけど絶対違う! 恐る恐る目を開けるとそこには、
ドアの向こう、ガラス一枚へだてた向こうには、真っ黒い母が立っていました。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」 バン!バン!バン!バン!バン!バン!
真っ黒い母の 形をしたソレは大声で笑いながらガラスをバンバン叩いています!
「もうだめだ・・・私ここで死ぬんだ・・・」
もう恐怖を乗り越えて放心状態でドアに体を預けてへたりこんでいると、
キキィーーー! ばんッ 「A子!!大丈夫?!ケガはない?!」
そこには車のヘッドライト越しに本物の母親が立っていました。
ああ。。本物のお母さんだ・・・ A子さんはそこで意識がなくなりました。
次に目が覚めると病院のベットにいました。
後で聞いた話だと、A子さんから電話を受けたお母さんは電話ボックスにいると聞いた途端に電話が切れてしまったそうで、慌てて車で 向かい、そこでぐったりとボックス内で横たわるA子さんを発見、その場で救急車を呼んだそうです。
その後、A子さんは軽い熱があるくらいで、とくに体には異変は無く、一応念のため入院し2日ほどで退院をしたそうです。
黒いアレについては母親に話したそうですが、きっと体調を崩して悪い夢でも見たのだろうと言われましたが、一応学校には報告をし、放課後遅くまで残らないと全校集会で注意され、保護者には不審者が出たので注意して下さい。っとプリントが配布されたそうです。