5(完結)
十二月二十四日、いやもう、十二月二十五日か。
少し酔いが醒めてきたらしい。さすがに寒い。
「秀那さん。僕の上に乗って下さい」
「え? でも。通り抜けちゃうでしょ?」
「いいから。いいから」
サンタクロースが座っているところに、あたしも座ると、二人の体は重なり合った。
次の瞬間、あたしは温かさを感じた。
「これは?」
「僕がプレゼントのエネルギーを熱変換してるんです。これでもう寒くないですか?」
「寒くない。温かくて気持ちいい。このまま眠っちゃいそう」
「眠ってしまっていいですよ」
「それはあたしが嫌だな。残り少ない時間、眠ってしまうのはもったいない」
「僕もそうですよ。ははは。僕たち、本当に気が合いますね」
「今度こそプレゼントは完成?」
「夜明け前まで秀那さんを温めれば完成です」
「良かった。やっぱりミジンコの彼氏は嫌だから」
「僕もミジンコにはなりたくないです」
あたしもサンタクロースも大笑いした。
◇◇◇
「ねぇ。夜が明けたら、みんな忘れちゃうの?」
「残念だけど、やっぱりそういうシステムなんです」
「忘れたくない。忘れたくないと思っていれば、忘れないかな?」
「それは僕にも分かりません。忘れないかもしれません。だけど、秀那さん……」
「んっ?」
「忘れても忘れなくても、前を向いて生きていこう。そう思ってるでしょ?」
「あはは、何でも分かっちゃうんだね。一体化しているからかな?」
「だって、僕がそう思ってるんですから」
「ん……」
◇◇◇
「ぐっ」
十二月二十五日朝七時、あたしは頭の鈍痛と共に、目を覚ました。
あちゃあ、二日酔いかあ。ゆうべ、そんなに呑んだっけ? ん~、だけど……
何だろう…… 嬉しくて 悲しくて そして、温かくて……
何かがあった。ゆうべ、何かがあった。思い出したい。でも、思い出せない。何かが…… 何かが……
「あれ?」
鏡を見るあたしの右目から涙が一粒だけ流れ落ちていた。
◇◇◇
「秀那ちゃ~ん。やっぱり東京行っちゃうことにしたの~?」
いつもの調子のサキだ。良かった。長谷川君とのデートうまくいったんだね。
「そう。ここは居心地がいいけど、もうちょっと色んなこと前に進んでみようかなと思って」
そうすることがあいつとの約束を守ることになるって、あいつって誰だ? やっぱり、思い出せない。
考え込んでいたあたしにサキはいきなり後ろから抱き着いてきた。
「秀那ちゃんがいなくなると寂しいよお。あたしを捨てないで~」
一斉に営業所中の注目がこちらに集まる。ええい、離せ。離さぬかあ~。
「サキも東京に行けばいいじゃない。長谷川君もいるしさー」
「長谷川君は別に嫌いじゃないけど、あたしが好きなのは秀那ちゃん」
やめろっ、そういうこと言うな。また、注目を浴びるじゃないか。
「サキ。東京に行こう。あたしはサキが東京に行けるようバックアップしてあげるよ。だから、追いかけてきな」
「ううーっ、秀那ちゃ~ん」
「あの~」
おずおずと出て来たのはまたも田中君。
「僕も上泉さんの後を追いかけたいです。応援してくれますか?」
「うん」
あたしは笑顔を見せた。
「追いかけといで。応援するから」
明るく前向きに行こう。それがあいつとの約束だから。
だから、あいつって誰だ? 思い出せない……