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 残業があればしてってもよかったんだけど、営業所長が「はーい。今日はイブだからね~。みんな、帰っていいよ~。私も今日は家族とケーキだからね~」とパソコンの電源を切って回る。


 普段はホワイトでいい職場だと思うけど、今日は別だ。余計なことしてからに~だ。


 結局、営業所長は六時に施錠してしまい、あたしは寒空の下、放り出されることになった。


 しばらくは本屋で立ち読みでもして、時間を潰そう。一人カラオケもいいけれど、周りの部屋がみんなカップルだったら、やだしな~。シネマコンプレックスも危険だ。周りがみんなカップルの可能性がある。


 結局、九時頃まで本屋にいたが、もう、読む本もなくなり、閉店にもなるので、食事に出ることにした。


 レストランとか論外だろう。一人居酒屋ってのもな~。コンビニも空しすぎる。ファストフードが妥当な線か。


 繁華街を歩くあたしの周りは、カップルかもうとっくにクリスマスを卒業した酔っ払いのおじさんたちがたむろしている。


 そんなあたしの前で一人のサンタクロースが転んだ。


「あっ、大丈夫ですか?」


 そのサンタクロースはゆっくり立ち上がりながら、あたしの顔を見て言った。

「上泉秀那さん?」


 ◇◇◇


「はあ?」

 あたしはサンタクロースの顔をしげしげとながめた。


 若い。あたしより年下っぽい。


 サンドイッチマンのバイトをしている昔の知り合い…… と言ったところだろう。


 しかし、この顔にはどうにも見覚えがない。小学校時代の知り合いで昔より顔が大きく変わったってとこか。


「はあはあ、やっと会えた。僕、サンタクロースです」


「いや、サンタクロースなのは見れば分かるけど、どちらさまで?」


「いえ、僕、本物のサンタクロースなんです」


「…… あの、何かのプレイがお望みなら、ご自宅で彼女か奥様と……」


「ごめんなさい。いきなり言われても分からないですよね。お腹空いてるんでしょう。そこの居酒屋で何か食べましょう」


 新手のナンパか? だが、人の多い居酒屋なら、何かあっても、すぐ助けを呼べるだろう。お腹が空いてるのも事実だし、あたしは付き合ってやることにした。


 ◇◇◇


「へい。らっしゃい。二名様ご案内~」

 居酒屋の店員はさすがにサンタクロースには驚きの表情を見せたが、すぐにプロ根性を見せてくれた。


 まあ、クリスマスイブだし、バイト上がりにそのまま呑みにきたと好意的に解釈してくれたに違いない。


 多方向から視線を浴びてるが、まあ仕方あるまい。クリスマスイブの日に居酒屋で、女一人で呑むのと、サンタクロースと二人で呑むのと、どっちが恥ずかしいか、あたしにも分からない。


 サンタクロースはいきなり初々しさを見せてくれた。

「あの、自分から誘っておいてなんですが、僕はあんまり慣れてないんで、お任せしちゃっていいですか?」


 どこのおぼっちゃまくんだよと思ったが、乗ってやることにした。


「ふーん。あなた、二十歳超えてるんでしょ? 呑めるの?」


「はあ、一応は二十は超えています。呑める…… と思います」


「んじゃあ、とりあえず生中二杯で、食べ物は、あたしの好みで刺身盛り合わせと焼き鳥盛り合わせね」


「あの僕…… 」

 話を切り出そうとするサンタクロースをあたしは制した。


「まあまあ、こういう時は乾杯してからだよ」


 ◇◇◇


 乾杯後のビールはあたしの体に染み渡った。


 今日はお昼から何も食べてない上に、街中歩き回ったからな~。そんなことも思った。


 サンタクロースを見ると、おっかなびっくりという感じだが、ちびちび呑んでいる。


 まるっきり呑めない相手に無理強いした訳でもないようだ。あたしはほっとした。


「あの僕……」

 サンタクロースはまた話を切り出した。


 ◇◇◇


「何かな?」

 一度は話を遮ったんだ。今度は聞いてやるのが筋だろう。


「信じてもらえないとは思うんですが、本物のサンタクロースなんです。サンタクロースは本当にいるんです」


 また始まったかと思ったが、あたしは一回ぐらいは聞いてやろうと思った。

「そのサンタクロースがこのあたしに何の用かな?」


「人間は全員が十歳になるまでに一回必ずサンタクロースに会って、プレゼントをもらっているんです。みんな忘れているだけで……」


 夢のある話だな~。もうちょっと聞いてやるか。

「ほうほう。それではこのあたしもサンタクロースに会って忘れていると」


「いっ、いえ、違うんです」

 サンタクロースは急に立ち上がった。

「秀那さんは、上泉秀那さんは一回もサンタクロースに会って、プレゼントをもらわないまま、この年まで来ちゃったんです」


「ぶっ」

 思わず呑んだビールを吹き出した。

「えっ? それは一体どういうこと?」


「それは……」

 サンタクロースは少し口ごもったが、続けた。

「秀那さんは本当は八歳のクリスマスにサンタクロースと会って、プレゼントを貰うはずだったんです」


「それが何故、なくなった訳?」


「それはその、秀那さんの担当の僕が秀那さんのことを忘れていて……」


「忘れられてたの? このあたしっ?」


「それが去年のサンタクロース界の事務監査で発覚して、僕はさんざん怒られて、今年は何が何でも秀那さんに会って、プレゼントを渡してこいと。今年の僕の本来会ってプレゼント渡すはずの子供たちは、他のサンタクロースが分担して、会ってくれることになったんです」


「はあ~。サンタクロースってそんなに何人もいるんだ……」


「そりゃそうですよ。世界中に何人子供たちがいると思ってるんです」


「そう言われればそうか。んっ? 今、あなた、八歳のあたしに会う筈だったって言ったよね。あたしが八歳の時にもう現役? あなた、何歳なの?」


「僕ですか。六十九歳です。サンタクロースは妖精(フェアリー)の種族に入るので、エルフとかと一緒で長命なんです。この世界では若造ですよ」


「はあ。そうなのか~」


 

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