蘇る記憶
「ちょっと!!死なせないから....絶対死なせないからね!!!」
この言葉が頭ので何度も繰り返される。しかし、嫌では無い。
俺は死んだのだろうか.......。
真っ暗な闇の中を俺は落ちて行く。底知れぬ深い深い闇の中に.......。
その時、俺は思い出した。
何故俺がこのゲームのヒロインを「桜」と呼ぶようになった理由を。
すると目の前に映像となって記憶が映し出される。
それは俺がこのゲームと出会う前の話しである。
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「月太!起きなさい。学校でしょ!!」
「あ、あ〜〜」
俺は嫌々ベットから起き上がり洗面台へと向かう。
まだ意識が朦朧としているからか足が上手く上がらない。
そんな状態だがなんとか洗面台のたどり着くと明かりがついていた。
あれ.......誰かいるのか?
俺はそっと顔を出して覗くとそこには髪をといている血の繋がっていない妹がいた。
あまり覗いていると変にロリコンとか思われそうなので軽く「おはよう」と声をかける。
すると妹も笑顔で「おはようございます。お兄ちゃん」と返事をしてくれた。
家のルール上、年上には敬語を使わばければならないのだが、俺は堅苦しいのが嫌いなので親がいない時は普通の兄妹と変わらないように接している。
なので妹の挨拶はいつも敬語が入り交じった感じなのだ。
しかし俺の妹は優しい。いや、優し過ぎるのかもしれない。
何故なら中学生と言う反抗期の時期なのに怒ったところを見たことがない。
そんな妹に俺の親は平気で暴力を振るう。
また俺には一度も手を出したことは無い。それはそれで問題だが妹だけに手を出すのはどうかと思う。
それが原因で最近は妹を庇う俺と親で喧嘩になることが多くなっている。
おっと、こんな愚痴を言ってる場合じゃなかった。
俺は急いで顔を洗い妹の髪を結んでやる。
妹は不器用では無いが少し遅いため俺が良く手伝っているのだ。
しかし綺麗な白髪だ。
血の繋がりが無いとはいえここまで違うとはいつも驚かされる。
「よし、出来たぞ」
「ありがとうお兄ちゃん!」
そうして俺達はリビングに向かう。
中に入ると朝食が用意されていたが三人分しか無い。
また妹の分だけ無いのだ。
さすがに俺もキレそうだった。
「母さん、いつもいつも桜(妹)の分だけ無いのはどういうことだ!!」
俺は机を叩く。
すると後ろにいた妹が驚いていた。
「桜は父さんの連れ子でしょ?だいたい住まわしてもらってる分際で朝食まで出る訳無いでしょ!」
「桜がなんかしたのかよ!」
いつもこうだ。血の繋がりがそんなに大事か?
俺はもう我慢の限界だった。
こんなにも優しい桜に対して俺の親父は助けもせずに見て見ぬふりをして、母親は暴力三昧の日常、もう殺したくなるくらいだった。
そして俺は毎日、桜の泣き顔を見ることしか出来ない。
もうそんな日々はウンザリだった。
だから今日こそはけじめをつけてやる。
そう思い俺は腕を高く上げた。
すると桜は俺の腕を掴み押さえつけている。
「兄さん、私は大丈夫ですから」
妹は涙目になりながら俺を止めていた。
さすがに殴る気分にはなれなかった。
その時の母親はとても驚いていた。まあ、俺も反抗期は無かった人間だからよけいだろう。
そして俺は母親を睨みつけながら歩いて行く。もうこの場に居たくなかったので取り敢えず自分の部屋に戻る。
すると数秒も経たず内にドアから桜が部屋に入って来た。
「お兄ちゃん.........」
「すまない。もう大丈夫だ」
「でも.......」
俺は桜の方を見ようとした瞬間意識が揺らぐ。
罪を償え
そんな声が聞こえてくるとあの暗闇に戻され、今度はまた違う記憶が映し出される。
それは.......。
あの喧嘩から数日が経った雨の日のこと。
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学校帰りはいつも桜と一緒に帰っていたが今日は桜の姿が無かった。
心配になり俺は大雨の中、ずぶ濡れになりながら全速力で家に向かっていた。
「はぁ、はぁ.......なんなんだよこの雨」
俺は顔についた雨粒を拭いながらまた走り出す。
桜のやつ、どこに行ったんだ?......もう家に帰っているといいのだが。
嫌な予感しかしない。
最近はあまり目立ったことは無かったものの、以前の喧嘩から俺は両親とは喋っていない。
しかし今日は特に胸騒ぎがするのだ。
俺は走った。心臓が苦しくなりながらも走り続け家に着く。
そして俺は中に入ろうとすると足元に赤い液体が流れて来る。
「ま、まさかな。嘘だよな、あはは」
最初は走りすぎて幻覚が見えていると思っていた。
しかしそれは現実だった。
俺はドアを開けると何かが倒れてきた。
それはまるで人形のように真っ白な肌で綺麗な髪が赤黒く染まっている。
しかしそれは紛れもなく俺の妹だった。
そして目の前には血の付着した包丁を片手に母親が泣いていた。
何故.....こうなったんだ?
俺は理解が出来ずその場に立ちすくむ。
そして死んだ妹を抱きかかえ涙目が零れ落ちる。
なんで妹なんだ......なんで....。
俺はただ泣き続けた。
その時俺の中にある大切な物が壊れた気がした。
「母さん......」
俺は立ち上がり包丁を手に取る。
そして強く握り締めて歯を食いしばる。
「ち、ちが、私は悪くない!だってこの子が....」
「死ねよ...」
グサッ!!
母親の首から赤い液体が零れ落ちる。
すると母親はピクリとも動かなくなる。
しかしそれだけでは俺は許せなかった。
何度も何度も刺した。
自分の手が真っ黒になるまで刺し続ける。
最後には包丁が折れてしまった。
ああ.....なんで妹なんだ。
すると視界が黒と白以外の色が判別出来なくなっていく。
まるで白黒テレビの世界のようだった。
しかし今はどうでもよかった。
だって......
もう妹は帰って来ないのだから。
そして気づけば手に手錠をかけられ車へと運ばれて行く。
玄関先には涙を流している父の姿が目に入る。
しかし俺は車に乗せられ刑務所へと連行される。
どうでもいい。と言うか死にたい。
何度もそう願った。
刑務所に入れられようが包丁で滅多刺しにされようが妹が生きていてくれればそれでいいと俺は願った。
俺が牢屋に入れられて数ヶ月が経ったある日、一通の手紙が届く。
中を開けると病院から俺宛の手紙だった。
俺は読みたくなかった。
しかし俺は微かな希望を信じて目を通していく。
そしてまた涙が零れ落ちる。
それは妹の死を意味する手紙であった。
俺は生きる希望どころか何も考えたくなかった。
手紙を破ろうとするともう一枚のチラシが入っていた。
それがこのゲームとの出会いだった。
「もう一度人生をやり直せる」
その言葉に魅力を感じた。
俺は一年間の刑務所生活が終わると直ぐに応募した。
その内容は簡単に言うと毒味と同じだった。
もちろん試験には合格した。
そうして迎えた実験日、俺は驚きを隠せなかった。
最新のVRを使った仮想世界は想像を絶するものだった。
白と黒しか見えなかった俺の目に色が見えるのだ。
しかも心の重みが無くなり申し分ない自由感を感じた。
「すごい!なんでも出来そうだ!!」
しかし実験が終わるとまたあの白黒世界に戻される。
俺は実験のお詫びとして早くゲーム機を手に入れられた。
そして学校も辞め俺は四六時中ずっと仮想世界を楽しんだ。
そうしているとあるゲームが発売された。
これが俺の今に至るゲームだった。
題名は「エンドtheワールド」
仮想世界を異世界に見立てた設定になっており、ストーリーは三人の勇者に魔物の軍勢が襲いかかると言うよくあるシナリオだ。
しかし俺が気になったのはストーリーでも世界観でもなくヒロインが妹にそっくりだったからだ。
もう一度妹に会える例え嘘ものだとしても嬉しい。
そう思った俺は発売と同時に直ぐに購入した。
しかし俺はこのゲームをなめていたようだ。
こんにちはまたはこんばんは、永久光です。
今回のストーリーは少しグロテスクな描写が多いので気分を悪くされた方には申し訳ないです。
しかし最後まで読んで頂きありがとうございます。
そしてもう1つ、投稿が遅れてしまいすみませんでした。
これからもじゃんじゃん続くのでアドバイスを送ってくれると助かります。