イチ
四限目の終わりの鐘が校内に響いた。
私は急いで教室を出て、階段を駆け下りる。汗で張り付いたシャツがもどかしく胸元を手で引き、扇いだ。
中庭の一本の木の下まで行く。青々と茂る葉の影の下に彼がいた。いつものように分厚い本を読んでいる。
私は彼の隣に座り、本を覗いた。
「また来たのか。」
彼は読んでいた本を閉じ、私を見た。
私は、「また来ました。」と言うようにピースを突出し彼に笑う。いつもの事だ。
彼、伊吹湊くんは溜息を吐く。
「こんな所に来ていいのか?お前の残り少ない学校生活の昼休みを毎日俺らと過ごすなんて勿体ない事しない方がいいと思うが。」
私はそういう彼に
【私は、学校の友達と有意義な時間を過ごしているだけです。】
紙を見せれば表情一つ変えずにそれを読んだ彼は
「こんな時間が有意義なんて可哀想な奴だな。」
と言った。
【今の発言はムカつきますよ。伊吹君の馬鹿!!】
「馬鹿と言った方が馬鹿だと、相馬は言うぞ。」
向かい側から走ってくる相馬君と奈緒を見て言った。
【相馬君って、小学生?】
「いや、精神年齢はもっと下だろ。」
【もう書くの疲れました】
こんなやり取りを毎日していた。
この関係はなんと呼ぶべきか?もどかしくもあり、心地よくもあるのだ。
私の望んだこの日々は。
伊吹湊。本好きの優しい人。
私の好きな人。それだけ覚えていれば、何も困る事はない。
彼がそこにいてくれれば、それだけで。