理不尽なこの世界
だいぶ前から温めていた設定が固まったので投稿します。
どうか、お付き合いお願いします
『世界は魔法によって生まれた。神々によって作られた土地に魔法を持って産まれた【天の子】と特技を持つ【海の子】が誕生した。やがて彼等は戦争を起こし、約1000年に及ぶ大戦の後魔法がこの世を統一した。敗れた【海の子】は【天の子】によって支配され、苦渋の生活を強いられた。【天の子】は決して【海の子】には成らず、其の逆も然り。人は生まれた時既に神によってその人生を決められているのである』
虫の声が五月蝿く周囲を埋め尽くすある夏の昼下がり。
俺は学院の庭にある木陰のベンチで読んでいた『創造の歴史』という本をパタンと閉じた。
「本当にこの世は理不尽だ」
俺の名前はメシア・アストル。現在歳は20を刻み、このロマニア学院で魔法基礎、戦闘術を教え、一クラスある【海の子】の担任をしている教師だ。因みに教歴二年目、世の子供は18歳で成人し様々な職に就くため決して俺が早いという理由ではない。
「メシアせんせーい!授業始まるよー!」
木陰で休んでいる俺の元に【海の子】クラスの生徒であるイア・ミスティシアが大手を振りながら駆け寄ってきた。
イア・アスティシア 17歳、肩下まである銀髪は手入れが良く行き届いていて太陽を反射するその様はまるで天使の様。綺麗な紅目を持ち人当たりも良く面倒見の良い性格のの為多くの人に慕われるが、自分の中に真っ直ぐな信念を持っており何事にも愚直に取り組む良き女の子だ。
【海の子】クラスでは委員長の座に就いていて他のクラスメイトを良くまとめてくれる為俺の負担も減っている。本当に出来た子なのだ。
しかし、イアも深い事情を抱えている。出は名のある貴族の家なのだがなんせ彼女は【海の子】世間的には何の地位も持たない平民以下の存在である為、学費こそ払ってもらっているが基本的には破門だ。
実はこういうケースは少なくない。俺も例に漏れないのだから……
「先生?何ぼーっとしてるの!早くしないと授業始まっちゃうよ!?」
「あぁ、すまんちょっと考え事を……さて、行こうか」
俺は笑顔で俺の横を歩くイアと共に次の授業を行うため【海の子】の、いや俺の生徒の元へと向かう。
この世界は理不尽だ。それを知ってなお【海の子】達は【天の子】に負けないくらい強く生きないといけない。俺の使命は生徒が自分で生きる術をしっかりと身につけて貰うことにある。
その為には俺は世界の条理ですら敵に回してやる。
クラスのドアを開くと最早家族以上に見慣れた顔ぶれが目の前に揃う。
全寮制のこの学校なら家族と言っても過言では無いのだが…
「よーし、授業始めるぞ?この時間は…初めての『魔法基礎』だったか」
俺が声を張ると年齢もバラバラな生徒達は大人しく速やかに着席する。
何故年齢がバラバラなのか。理由は簡単だ、このロマニア学院には【海の子】のクラスはひとつしか無いのだ。基本的には【海の子】には教育を受ける機会が少ない。国の政策で【天の子】に対する魔導教育は重視されているが魔法の使えない【海の子】には殆どなしと言っていいほど何も無い。
加えて【天の子】による虐め問題も想像を絶しており、魔法による一方的な虐待は見ていられない。国もそれを止めないのだ。
年老いた教師達が外で教える通称『青空教室』なる物は存在するものの通常の学院には無い所が多い程だ。
よってこの俺が受け持つクラスには男女比4 /6、下は10歳、上は18歳までの計20人。因みに言うとイアは最年長で同じ17歳には彼女の幼馴染のサラという女の子が居る。
「せんせー、いつも思うんですけど俺たち【海の子】が魔法を勉強する意味ってあるの?」
クラスのムードメーカーのカイルが机にダラーっと伏せながら面倒くさそうな顔で聞いてきた。
【海の子】クラスでは今までは魔法の授業は行わなかったのだが、学院長に直談判して俺が無理やり今年の授業に組み込んでもらったのだ。実際はクラスの数人…イアなどのわざわざ教えを乞いた生徒には教えてきたのだが。
まぁ、初めて魔法を習う子達がそう思うのが普通だろう。魔法を使えないのに魔法を使う勉強をするなんて頭がおかしいと。だが、俺もしっかり考えがある。
「確かに【海の子】は魔法を学んでも使えないかもしれない」
「じゃあ意味無いじゃん!」
カイルが言うと他の子も同調する。
やんややんやと騒ぐ年頃の生徒を静かにさせるとその理由を詳しく説明する。
「世界は【天の子】を中心に回っている事は前にも説明したな?それだと俺達【海の子】は一生それを覆せないんだよ」
自分の生徒には俺の様な苦しみを味わって欲しくないないから……【海の子】として死地を彷徨った俺の様にならない為に。
「あの…覆す事って反乱何じゃ…」
おどおどとした女生徒、ルミニアが申し訳なさそうに発言する。
「勿論反乱は『イケない』事だ。だがそれを差し置いてこの世界の条理を完成させたのは【天の子】達なんだよ。別にお前達に反乱を起こさせようという気はサラサラ無いんだが魔法に対してしっかりとした知識を持っていないと一方的にやられるだけだろ?」
「反乱出来るのかー?」
「勿論。例えば炎魔法なら大量の水をぶっかけたら機能しなくなるからな。まぁそれだけが目的じゃないんだけど【海の子】のお前達には自分をしっかり持ってほしいんだよ」
俺の話を聞いていた生徒は目を輝かせている。【海の子】は決して【天の子】に劣ってなどいないのだから。
「さて!早速基本から説明していくぞー」
俺は教科書を開くと懇切丁寧に魔法の原理について説明を始めた。
説明した内容はこうだ。
まず、魔法には5つの属性が存在し『炎』『水』『風』『電気』『重力』の事を言う。
それぞれ相性という物があり、水が炎に強く、風が水に強い、そして炎が風に強い。
残りの電気と重力は単体として存在しており特に得意不得意は無いこと。
魔法の発動には魔法陣を作り上げ、そこに自身に流れる魔力を流し込む事によって発動出来ること。魔法陣を作る際に違う属性を組み合わせる事によって複合魔法を作れる事。
要約するとざっとこんな感じだ。
魔法自体は難しく無いんだが【海の子】に魔力が流れてない事が問題なんだよな…恨むぞ神よ。
一通り概要を説明し終えた所で鐘が鳴り響き授業の終わりを伝えて来る。
「終わりか。お前達気をつけて寮まで帰れよー?なんかあったらすぐに俺に連絡する事な」
俺が忠告すると「はーい」と口を揃えて返事する。実に素直な生徒達だ。
俺も荷物をまとめて教室を出ようとすると明るい色のツインテールをふよふよと揺らしながら寄ってくるこのクラス最年少10歳の女の子ミミ。
流石にこの子にこの手の話はまだ早すぎたかな。と思ったら逆に意表を突かれた。
「せんせ?まほーじんの所もっかいせつめいしてくれる?」
ノートに取った拙いながらも一生懸命書いたであろう魔法陣を見た俺は感動で涙が出そうだった。
俺はチョークを取り出して黒板に比較的わかりやすく、噛み砕いてミミに質問を混じえながら説明すると明るい太陽のような笑みで見上げてきた。
「せんせ!ありがとう!またあしたね♪」
俺は教室を出ていくミミに手を振って見送ると俺も割り当てられている職員室へと向かう。
この学院では先生には一つ部屋が割り当てられているのだ。
「大分慣れたがまだまだ不安要素が残るなー」
独り言を呟く俺は本当に今の授業で大丈夫か悩まされる事が多い。
なんせ生徒の年齢層の幅が大きいからな。あまり難しくてもいけないしかと言って簡単でもいけない。
「あんまり思いつめてはいけませんよ?」
声につられてドアを見ると長い金髪を揺らした女生徒、すなわち【海の子】の生徒サラが立っていた。
サラ・カラマイト・デザイアはイアと同じ17歳の生徒でイアと共に良くクラスを纏めてくれている優良児だ。
煌めく様な長い金髪を後ろで束ね、碧眼のおっとりとした瞳、柔らかい笑顔は男を魅了の渦にたたき落とす。
見かけはおっとりとしているが本心は裏腹。キレるとあのイアを凌ぐほど怖い。
そして、『デザイア』という家名。出は貴族という彼女なのだが偽名である。彼女にはそうせざるを得ない事情が有るのだが…
何故俺がここまで知っているかと言うと…まぁ、うん。サラとは不思議な縁があったのだ。
「大丈夫だ。今夜の夕飯どうしようかなと考えてたんだよ」
「あら?先生今夜は家には来ないのですか?グライヤ学院長も寂しがっていましたよ?」
学院長……
何故学院長が俺を家に呼ぶのか、サラが何故学院長と共に暮らしているのか…
いくつか理由は有るのだが簡単に言うと俺もサラも幼少期に学院長ことグライヤ・シェルマイスに拾われ育てて貰ったのだ。
だったら素直に顔を出せって思うだろうが………あの女には何されるか分かったもんじゃ無いからな…正直怖い。
「あ、はは……グライヤにはまた今度行くと言っといてくれよ」
「もー、そう言って前回も逃げたの忘れたんですかぁ?」
サラが何やらたくらんだ様なじとーとした表情で覗き込んでくる。……近ぃ。
俺も男だ。端正に整った歳の近い女の子が至近距離に近づいてきたら動揺する。だが…サラは生徒であり妹の様な女の子だ。教師である俺が手を出すわけにはいかんのだ!
俺は鋼の精神でサラの肩を掴み距離を離し照れくさくて顔が見れないが早く帰るように指示しようとした。
「まったく…連れないんだからー兄さんは昔から…そんなのだといつまで経っても彼女、できませんよ?」
サラは二人きりと言うか家では『兄さん』と呼ぶ癖がある。わざとなのかそうでないのか定かでは無いが……外で言うのは正直控えて欲しいところではある。誰かに聞かれたら死刑ものだ。
「う、うるさい!彼女なんて別にいなくても困らん」
「ふふん!強がっちゃってぇ〜」
サラが上目遣いでこちらを見上げてくる。
最近になってやけにサラの行動にあざとさが増した気がする。いや、兄目線で心配してるだけだから、変な男がつかないように…うん、そうだそれだ!
「でもっ、もし兄さんに近づく女が居たら全力で始末しますけど」
「うん?」
やけに小声で言うものだから上手く聞き取れなかった。なんやら不穏な事を考えている事は表情を見たら明らかだが……
バン!!!!!
「先生!大変なの!!」
突然ドアが乱暴に開けられ、俺の生徒であるユウナが息を切らし、肩で息をしながら飛び込んできた。
汗でびっしょりな彼女の明るいピンク色の髪の毛はべったりと張りつき、顔や腕に傷が…服も所々ほつれている。
「どうした!?サラっ!医療箱とって」
「はい先生!」
サラが慣れた手つきでユウナの傷の手当をしていく間俺はタオルで汗を拭ってやる。
魔法が使える【天の子】ならば必要無いのだが【海の子】の俺たちは原始的な治療で治すしか無いのだ。本当に理不尽。
「せんせい…たいへんなの」
「何かあったのか?」
未だ泣きそうなユウナの背中をさすってやりながら落ち着かせながら話を聞く。
「ミミちゃんとタマちゃんが【天の子】クラスの子に虐められたの…ユウナも助けに入ったんだけど魔法にやられて…近くにいたイア姉が先生を呼んで来てって…言われたの」
タマちゃんとはうちのクラスの最年少ミミの一つ上の女の子。それが虐められてるだって!?止めに入ったユウナも13歳と小さいからやられる一方だったのか。
それでもイアがミミタマの傍にいるなら少しは時間が稼げているはずだな。すぐに準備しないと。
「サラ俺の魔道具まとめて取ってくれ。今すぐ助けに行かないと!ユウナ、案内してくれるか?」
俺は上着の内側にサラから受け取った魔道具の数々を装着してユウナの案内の元現場へ走り出す。
現場はすぐに見つかり、遠くからもその姿を視認することが出来た。
ミミとタマが抱き合って震えているのをイアが身を挺して庇っている。
そこへ5人がかりで魔法の雨を降らせている。【天の子】の持っているものが初級のルーンである事が幸いしたのか致命傷にはなっていないらしい。
通常【天の子】は魔力が込められた不思議な石、通称『ルーン』と呼ばれる拳大の石に魔法陣を組み込み魔法を発動する。
今彼等が持っているのは初級ルーンと呼ばれる殺傷能力はほぼない程度の魔法を発動する言わば練習用ルーンだ。
しかしそれも防御魔法を張った相手に対しての場合で生身の人間にはダメージも大きい。
「何やってんだ!!今すぐやめろ!」
俺が駆け寄りざま大声を上げるとそれに驚いたのか【天の子】の生徒達は魔法を打つ手を止める。
見た所魔法習いたての初心者…おそらく一年生だろう。
俺がミミやイア達を庇うように立つとコツコツと足音を鳴らしながら長身の男性が現れた。
「ほほう、こんな子供同士のいざこざに教師が手を出すのですか?」
姿を現したのは【天の子】クラス担任、ザイル・サーペンタ。【天の子】である彼は怖い位の【海の子】被虐主義者であり学校でも【海の子】生徒に対して魔法を放つ事も少なくない。
「あんたこそ生徒が一方的に虐められている所を見て止めようと思わないのか?腐っても教師だろ」
俺の反論に対してザイルはゴミを見るような目で俺を見てきた。
「はて?生徒?私には私の生徒がゴミを掃除しているだけにしか見えないのですが」
「お前っ………」
ザイルの言葉を聞いた年少組はビクッと肩を震わせイアやサラも肩に力が入っている。さすがの俺も声が出ない。なんで神は生まれた時にここまで差を生んでしまったのか…
「流石に看過できないぞ。学院長にはそのまま報告するからな」
「何故か貴方は学院長に気に入られているみたいですが…何か問題でも?学院に認められなくても国が認める。それがこのシトラスの掟ですよ!さぁ、皆さんあのゴミたちを掃除しなさい!」
「「「はい!!」」」
もはやザイルの駒の様に素直に返事をするとルーンを構え呪文を唱え始める。
呪文が唱え終わると魔力が供給され魔法が発動してしまう…見た所全部火属性魔法だなっ。それなら…守れる!!
「……先生」
不安そうにボロボロになったイアが声を絞り出す。俺は背中越しにイア達に声をかける。
「大丈夫、お前らにこれ以上手出しはさせないから」
俺は上着の内側に装備しておいた親指大の小さな小瓶を手に取った。
小瓶の中には青色の澄んだ水が入っている。勿論ただの水入り瓶じゃない、特別製だ。
「はっ、一端の【海の子】教師に何が出来るって言うんですか!」
「「「火球!!」」」
ザイルの言葉に続くように立て続けに火属性の初級魔法である『火球』が放たれ、我先にと争うように襲いかかってくる。
だが、俺は焦らない。生徒を守ると決めていた俺は手にした小瓶を火球目掛けて投げつけた。
小瓶が火球に当たった瞬間小瓶に書かれた『魔法陣』が淡く光り、爆発と同時に中の水を使い霧の壁を作り出した。
「何!!?」
ザイルが驚きの声を上げるのもそのはず。
【天の子】生徒達が放った火球は全て霧の壁に閉ざされて消滅してしまったからだ。
火球が水分に非常に弱いなんて事は誰でも知っている常識だ。
【天の子】は勿論【海の子】である俺の生徒達も目を丸くしていた。サラだけは安心した様子で抱きついてきているユウナを優しく抱きしめていたが。
暫くすると霧の壁は風に流されて霧散してしまう。所詮は霧、自然の物だからな。
「お前…【海の子】ではないのか?」
ザイルが何か化け物を見るような目で俺を見ている。口もパクパクさせながら…そんなに驚いたのか?
「なんだ…知らなかったのか?【海の子】なら誰だって『特技』を持っている事ぐらい歴史の教科書にも書いてるぞ?」
【海の子】は生まれつき一つの得意技能を有している。それは足が極端に早かったり、鍛冶を行えたり、錬金術が使えたり…
人それぞれ違いはあれど【天の子】にも引けを取らない魅力だと俺は思っている。
「でもそれは…魔法と関係無いはずだ…」
「誰が決めた?」
ザイルの言葉に俺が噛み付く。
「は?」
「誰か無いって証明した人は居るのかって聞いてんだ」
俺の特技は『魔導具精製』と言う魔道具を作る事が出来るもの。魔道具とは正式名『人為的魔法作成道具』と言われ簡単に説明すると道具に魔法陣を組み込む事によって魔法を発動させる物だ。
魔導具は大昔に作られた神の遺産と呼ばれていて、現在では作成すること自体が不可能とされているのだが。それを可能にしたのが俺の特技『魔導具精製』って訳だ。
魔導具の利点としては『誰にでも使える』ってのが一番大きい。例え魔力を持たない【海の子】であったとしても空気中やその物質に存在する魔力を元に魔法を発動する為軽々と発動することが出来るのだ。
俺もどうやったら魔法が発動するか等の魔法陣を物に組み込み、発動させることは出来ても【天の子】ではないのでルーンから魔法を直接発動することは出来ない。
因みにさっきの小瓶には『熱感知で爆発』『内容物を散開させる』という魔法陣を組み込んである。これ一つ作るだけでも火、重力、水、風の四属性を複合させているため相当の知識を必要とする。我ながらコスパの悪い魔法だとは思う。
「そんな…それは神の遺産でしか…」
「神とかそんなのは知らん。俺ら【海の子】からしたら神なんぞ憎むべき対象出しかないからな。お前達もそんな先生の言いなりになってないで早く帰りなさい」
俺が【天の子】生徒達に指示を出すと逃げるように帰っていった。すみません位言わせないといけなかったな。
「ザイル先生…だったっけ?これに懲りたら俺の生徒に手を出すのはやめて頂きたい」
素直に…受け入れたとは思えないがかなりショックを受けたらしいザイルはとぼとぼと学院へと帰っていった。
「「「せんせーーい!!」」」
俺が安心させようと後ろを向いた瞬間、ミミとタマが俺の胸に涙で顔をぐしゃぐしゃに崩しながら飛び込んできた。
「よしよし、ごめんなもう少し早く来れたら良かったんだけど」
「うわーん」と大声で泣き崩れる二人。相当痛く怖い思いをしたのだろう。
俺は回復効果のある小瓶を取り出すと二人とイアに手渡した。
「うへぇ、苦い」
「苦いね」
ミミとタマはあまりの苦さに顔を顰めるが飲んだそばから体に出来ていた切り傷や擦り傷は消え去った。
因みにこれは魔導具では無く保険医が魔法で調合した回復薬だ。
流石に古代の道具もそんなに万能では無い。
俺はサラに顔を拭かれ、地面に座り込んでいるイアの傍によりその体を思い切り抱きしめた。
「ありがとうなイア。痛かっただろ…お前が庇ってなかったらミミもタマも無事で済まなかったかもしれない」
俺に抱きしめられたイアは顔を真っ赤に染め少しワタワタとした後しっかりと答えてきた。
「大丈夫だよ、せんせい。私は当然の事をしただけ……それより…」
イアが言葉に詰まり、何か不安な事でもある様子なので俺は腕の力を抜き、イアの目をしっかりと見つめる。
「あの…ザイル先生が言ってた…私達って『ゴミ』なの?」
あぁさっきザイルが言ってたやつか。
ミミも不安そうな顔をしてるしやはりダメージがあったか…益々許せん。
「俺も【海の子】だから説得力無いかもしれんが…俺が一度でもお前達の事をぞんざいに扱ったか?」
俺の真剣な問にイアは勿論ミミやタマもふるふると首を振る。サラもそんな様子を優しく見守っている。
「お前達はゴミなんかじゃない。しっかりとした人間だ。心があって体がある。人を思いやれる優しい人間だ。だから何も心配する必要なんかないんだ。俺が保証するよ」
それを聞いたイアはルビーアイに大粒の宝石の様な涙を浮かべた。
俺はイアの頭を優しく撫でてあげ、ゆっくりと立たせた。
その後は彼女たちを寮まで送り届け、俺も一人暮らしをしている借り家へともどった。
流石にその日は問題は起こらなかったが今日の出来事は俺にも深い傷を残していった。
本当にどうにかしないといけないと感じた俺は明日学院長に報告はしておこうと心に決めるのだった。……気乗りはしないがそんな事は言ってられん。生徒のためだから。
本当にこの世界は理不尽だ。神を呪うぐらいだよ…俺は夕飯も食べないでベッドへ横になり、暗い暗闇の世界に落ちていった。
どうでしたでしょうか『Violence The Magic World』の一話。
数日かけて書いたのは初めてですがその分いい物は書けたとおもいます。
このお話は一般的なスクールカーストからヒントを得て世界的なカースト制度を題材に書いてます。
主人公メシアは【海の子】であり魔法は使えません。しかし、【海の子】は一人一つの特技を持っているので、メシアだけが特別な訳ではありません。ちょっと珍しい特技ではありますが……
メシアの人生はあまり語りたく無いのですが混乱しない為に少し説明させていただきます。
まず、メシアは約8歳の時に元の家から追放されます。それはメシアの持つ『魔導具精製』の特技が異常だと考えられたからです。
殺され掛けたメシアは街へ逃げ出し、お金も無い住む家もない状態でその日暮しを続けます。
当時8歳の子供には不釣り合いな法外な値段の懸賞金が掛けられ世の中には賞金稼ぎが溢れます。
そこで、メシアが出会ったのは…そうグライヤです。彼女は当時、王家直属の魔導騎士団の名のある魔導師だったんですが、メシアと出会ったのをきっかけに引退。メシアを育てながらロマニア学院を設立した。というのが大まかな経歴になります。
サラとの出会いなど詳しいお話は番外編としていつか書きたいと思っていますのでその時までお待ちください!
では、ちょっと長くなりましたが読んで下さりありがとうございました。
次の投稿もできるだけ早くしますのでよろしくお願い致します。