魔性の瞳-97◆「思考」
■ヴェロンディ連合王国/王都(王家の門)
精一杯の虚勢を張ってレムリアの後を追いかけてゆくその男(エルド男爵)の様子を、私は冷やかな笑みを浮かべたまま、視野の片隅で見送った。
“・・・やはり、彼女はこの国に残るべきではない・・・”
そんな想いが自分の中で一際大きくなっていることに気づきはした。だからと言って、彼女をこの国から連れ出してどうするのか。自分に、確たる当てがあった訳ではない。暫し思案してみるが、早々良策が思い浮かぶわけでもない。
「・・・さて。どうしたものか。」
呟くように洩らして、夕闇の迫り来る空を仰ぐ。
・・・そう。元々私にとって、この国は、けして“愛すべき我が祖国”と呼べるような存在ではない。それゆえ、自分がそのような“想い”を抱いてしまうことに対する躊躇いは、実のところ「ない」と言ってしまっても過言ではない。だが・・・。
“・・・当の彼女は、はたしてどう思っているのだろう。”
そんな風に他人の気持ちを慮るのは、私にとって久方ぶりのことであったかもしれない。
様々な事柄に想いを巡らせながら、私は固く閉ざされた王家の門に背を向けると、ゆっくりと歩み去った。
“・・・もし彼女がいなければ、私がこの都に来ることは、二度とないのだろうがな。”
頭の片隅で、ふとそんなことを想いながら。