魔性の瞳-96◆「矮小」
■ヴェロンディ連合王国/王都(王家の門)
“こ、小娘が・・・”
その深い奈落の淵の様な、レムリアの黒い双眸を直接覗き込みそうになって、エルド男爵は慌てて目を逸らした。“魔性の瞳”──巷でその恐ろしさを喧伝されている効果を自分で試してみるほど、さしものエルド男爵も酔狂な考えは持ってはいなかった。
“王の義妹でなければ、誰がこんな乳臭い小娘を望むものか”
その“小娘”が気迫に、完全に気圧されていることを忌々しく思いながらも、エルド男爵は精一杯の虚勢を張った。
「宜しいでしょう、姫君。兄王陛下の元へ、謹んで御案内致すとしましょう。しかし“不埒なこと”とは──私もなかなか見くびられたものですなぁ」
王家の血筋で無ければ、誰がこんな貧相な小娘に興味を持とうか──言外にそんな言葉を匂わせながら、エルド男爵は冷笑を浮かべてみせる。
誰が何と言おうと、自分は王国に並ぶ者がない権勢者なのだ。そんな自分が、何を恐れることがあろうか。それが姫を名乗る小娘だろうが、食いっぱぐれの青臭い素浪人だろうが――
そう自分に言い聞かせていると、再び自身に名誉と誇りの想いが戻ってくるような感じがした。
「では、そこな剣士。貴公はお役目御免だ。この門を通るのは王族のみ故に、諦めて正門に回るが良い」
エリアドにそう言い放つと、エルド男爵は慌てて去っていくレムリアの後を追った。
仕事の都合で、アップが7日中に間に合いませんでした。従い、二話続けてアップ致します。