魔性の瞳-95◆「魔剣」
■ヴェロンディ連合王国/王都(王家の門)
「・・・フッ。」
私は、氷の如き薄い微笑みを浮かべ、立ち並ぶ兵士たちをじろりと一瞥する。
すべてを凍てつかせる“極北の永久凍土”の如き、冷やかな視線。
彼らを完全に無視して、右手を虚空に翳し、“それ”を呼ぶ。
飾り気のない簡素な灰色の鞘に収められた一振りの太刀。
──“阿修羅”
私は、手の中に現われた“それ”を、至極無造作に彼女の腕の中に放る。
「・・・マーガレット・レムリア・オフ・ヴェロンディ。
その剣を持ってゆくがいい。・・・陛下には、それでわかるはずだ」
見かけとは裏腹に、言葉にできなかった“万”の想いを、ただ一振りの剣に託して。
☆ ☆ ☆
手の中に落ちてきたのは魔剣──この世の理の外に在る、と噂される黒の刀。初めて触れるその感触に、レムリアは一瞬背筋に悪寒が走るのを感じた。
──昏い、凍り付くような波動
鞘によって封印されていても、レムリアの繊細な心には、刀の発する“色”が感じられた。何処までも深く、何処までも暗く──遙かな古代からの想い──
何かを振り払うかのように二三度首を振ると、レムリアは顔を上げて射るようにエルド男爵を見た。
「それでは、兄の所に行きましょう。但し、予め警告しておきます。我が身に何か不埒なことを行おうとしたら、遠慮なくこの剣を抜かせて貰います。貴方も、この剣が何であるか御存じでしょう? 理解されているのならば、詰まらない考えはお止めになることね」
氷のような冷たい声で言うと、最後に一度、エリアドに視線を振った。
“貴方の心、確かに預かって参りますわ。そして、兄さまに、はっきりと申し上げます”
その深い黒い双眸に、精一杯の想いを込めると、毅然と身を翻して王宮目指して馬を進めていった。