魔性の瞳-89◆「両想」
■ヴェロンディ連合王国/王家の森(湖)
「・・・レムリア。」
私はじっと彼女を見つめる。
「・・・面と向かって言われると、存外に恥ずかしいものだな・・・。だが・・・、君のその言葉を聞けてうれしいと思っている自分もいる。
・・・不思議なものだ。少し前までは、自分がこんな気持ちになれる人間だとは想像することさえできなかったというのに・・・」
彼女の黒い瞳に言葉が途切れる。
「・・・レムリア」
彼女の柔らかな黒髪をそっと撫で、黒い瞳をじっと見つめる。そして・・・。
さきほどは強引に奪った彼女の唇に、今度はそっと・・・、そっと自分の唇を寄せていく。
☆ ☆ ☆
「ん・・・」
その甘い口づけは、レムリアの心に甘美な陶酔を呼び起こした。相手の長く繊細な指が、繰り返し優しく髪を透くことも、その想いをいや増してゆく。
「エリアドさま・・・」
何度も、何度も──相手の名前を繰り返して呼ぶ。呼んだ回数だけ、相手との絆が強くなるのだと思うかのように。
だが、そんな僅かな時間も、過ぎ去るのは早い。
「エリアドさま・・・。陽が暮れていってしまいます。お城に・・・戻りましょう、ね」
名残惜しさを残して、レムリアはエリアドから身を離した。余り遅くなると、兄王と姉姫を心配させてしまう。
「また・・・ご一緒させて頂けると・・・とても、とても嬉しく思います」
頬を染めて、そんな言葉をレムリアは言ってみた。黒い双眸は濡れたように輝き、その端正な表情には自然な笑みが浮かんでいる。その心には、一辺の曇りも無いのだろう──この瞬間、レムリアは心が通じ合えたという幸福感に、溺れる想いだった。