魔性の瞳-87◆「告白」
■ヴェロンディ連合王国/王家の森(湖)
「・・・レムリア。」
私には、その彼女の微笑みは何よりうれしく思えた。
人形のようにも見えた偽りの仮面の微笑みでも、どこかに陰りを残した微笑みでもない。
少し躊躇うようにはにかんだ微笑みだが、まぎれもなく彼女自身の意志で紡がれた、心からの微笑み。
彼女の手の中のムーンストーンの首飾りをそっと拾いあげ、漆黒の瞳を見つめながら、彼女の首にかける。
「・・・“今”という“時”が、けして“夢”ではない証しとして。
・・・私の言葉が、けして“夢”ではない証しとして。
・・・そして、“今日”という日の想い出に。」
彼女をそっと抱き寄せ、耳元にささやく。
「・・・約束するよ。君はこれからいろいろな経験をするだろう。
・・・けして楽しいことばかりではないと思うが、それらはいつか君にとって、忘れ難い“想い出”となる。
・・・君が“生きて”いる限り、きっと。」
私はそう言って微笑った。
☆ ☆ ☆
「ありがとう。とっても・・・嬉しいです」
なんでなのだろう──不意にうまく言葉が出てこなくなってしまった。
なぜだか、躰がすごく熱く感じている。
心臓の鼓動は早鐘を打つかのように暴走気味──こんな感覚は初めてだった。
「あの・・・」
この人は、いつまでわたしを抱きしめているのだろう?
不快ではないけれど──躰が熱くて、おかしくなってしまいそう。
「あの・・・お城に、戻りませんか?」
囁くような声しか出なかった。
この状態から抜け出したいという想いと、ずっとこのままでいたいという想いが交錯する。
“わたしは、どこか変になってしまったのだろうか?”
はっきりしない頭で考えてみる。よく分からない。
でも──抱きしめられて、相手の鼓動を感じられることが、こうも居心地が良いとは思わなかった。
「ね、エリアドさま・・・お城に・・・」
声が途切れがちになる。
あぁ、頭も躰も熱い。わたしはどうなってしまうのだろうか・・・。