魔性の瞳-86◆「転換」
■ヴェロンディ連合王国/王家の森(湖)
涙が流れた。後から、後から──銀の筋を引いて、頬を流れ落ちていく。
──あ、暖かい・・・?
心に差し込んだ一条の陽光のように、不意に感じたもの。その想いが徐々に大きくなっていき、レムリアはそっと仰ぎ見た。
──あぁ・・・
どこか困ったような、それでいて優しげな表情。自分を見下ろすその双眸には、真摯な輝きが宿っているように思えた。
──心配・・・してくれているのですか? こんなわたしでも? 人に在らざるものでも? 忌み嫌われているものでも????
疑問が浮かんでは消えていく。いや──溶けていくとでも言った方が良いのだろうか。
──信じて・・・みよう・・・
莫迦なことをしているのかも知れない。愚かな考えなのかも知れない。所詮、人は独りで生き、独りで死ぬ──そんな声も頭の奥から聞こえてくる。
──でも・・・
自分を見つめる瞳は、暖かさと優しさに溢れていた。こんな自分の事を、本当に心配してくれていた。
──勇気を、出してみよう
逃げていた自分。
避けていた自分。
諦めていた自分。
それも自分なのだから、そんな自分と決別することは出来ない。だけども、そんな自分を変えようと努力することは出来る。迷いはまだあった。しかし、もはや逡巡はしていなかった。
意を決して、言葉を紡ぐ。一歩一歩、自分が変わるために。
「・・・はい。わたくしたちは、似ているかも知れませんね」
何時しか、涙は止まっていた。そして、厚い雲間から一筋の陽光が荒れた大地に差し込むように、微かな笑みが口元には浮かんでいた。
「無謀無思慮かも知れませんが・・・一度だけ、夢から醒めてみようかと思います・・・」
精一杯の勇気を出して──レムリアは未知の世界に一歩を踏み出した。色のない、孤独な世界を後にして──哀しみや苦労は多いが、喜びもある世界へ・・・。