魔性の瞳-83◆「告白」
■ヴェロンディ連合王国/王家の森(湖)
「・・・いや。・・・けして、笑いはせぬ。・・・私とて、貴女と変わらぬ時があった・・・。
・・・貴女より幾許か長い経験と、・・・苦い想い出とが、私に“答え”を教えてくれたに過ぎぬ・・・」
私は彼女の言葉にそう応じた。
『どうして、こんなに辛いのでしょう・・・』
ため息とともに洩れた彼女の想いに応えるように、私は静かに言葉を紡ぐ。
「・・・使い古された言葉なのだろうが、“人間は一人で生きてはゆけぬ。”という言葉もある。
・・・その言葉が正しいかどうかは、正直私にはよくわからぬ・・・。
・・・“人間であることをなかば以上捨て、他人との関わりを最小限にすませ、多くの人々(ひと)の中にありながら、一人孤高に生きる。” ・・・そんな生き方も、けして不可能とは思わぬ・・・。
・・・“阿修羅”を手にした私は、少なくとも一時期、そのような生き方をしてきたのだから・・・」
その頃の自分に想いを馳せる。
「・・・だが。・・・もし貴女に、私と同じものが視えるのなら・・・。そして・・・、貴女の視ているものが、私にも視えるのなら・・・。私たちはともに・・・、一緒に歩いてゆくことができるのではないか。・・・そんな風に思えた。
・・・それでも、貴女の背負っているものを、私が代わりに背負うわけにはゆかぬだろうし・・・、そして・・・、私が背負っているものを、貴女に背負ってもらうわけにもゆかぬだろう・・・。
・・・けれど、もし、ともに歩くことのできる者がいるなら・・・。
・・・今までとは、少しだけ違う気持ちで歩いてゆけるようになるのではないか・・・。
・・・昨夜、貴女と初めて出会った時・・・。ふと・・・、そんな気がした・・・」
彼女の頬にわずかに残った涙の跡に指先でそっと触れ、その漆黒の瞳をのぞき込む。
絶望の色に染まった彼女の瞳を見るのはつらかった。
いや・・・。彼女の瞳を、絶望の色に染まったままにしておきたくはなかった。
「・・・レムリア。・・・貴女は、昨夜、私と踊った時、感じなかったか?
だからこそ・・・あの時、『人が、人で有り続けるために狂わねばならないとしたら・・・』 そんな問いをしたのではないのか?」
私は静かに問いかけた。