魔性の瞳-81◆「心証」
■ヴェロンディ連合王国/王家の森(湖)
唇を重ねたのは数秒にも満たぬ短い時間。
しかし、彼女の見せた反応は、無垢な少女のそれであり、けして大人の女性のそれではなかった。
──大人びた振舞いをしてはいても、言葉や振舞いほどに大人ではなかったということだ。
──あたりまえではないか。
──エリアド。おまえはわずか17歳の少女に何を求めていたのだ。
私は震える彼女の髪をそっと撫で、優しく言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
・・・彼女の心まで届くように、と願いながら。
「・・・レムリア。もし貴女が私のことを怖いと思うなら、私はこのまま貴女の前から姿を消し、二度と現われまい。・・・貴女が興味を持った私という人間が、こういう一面も持っているのは、間切れもない事実なのだから」
ムーンストーンの首飾りをはずし、彼女の手にそっと握らせる。
「・・・その宝石は、貴女にさしあげよう。受け取ってもらえれば、うれしく思う」
それは、仄かに青みがかった光の揺れる、なかば透き通った白い宝石。
「・・・その宝石が司るという“静寂”が、きっと貴女の心を静めてくれよう。・・・そして、さきほど私が貴女に告げた──“一緒にいてほしい”という──言葉が・・・、“夢”ではなかった証となってくれることを、期待する・・・」