魔性の瞳-79◆「要求」
■ヴェロンディ連合王国/王家の森(湖)
やがて彼女は何かを決意したかのように唇を噛み締め、涙を拭う。
しかし・・・、そうして紡ぎ出された彼女の言葉は、少しも自分の胸に響いてはこなかった。
「・・・」
幾分冷やかな、そして、自嘲気味にも見える小さな笑みが、私の唇の端に戻ってくる。
「・・・残念だが、他の女性に興味はないな。・・・私は貴女に興味を持ったのだ。私が興味を持ったのは、貴女が女性だからではなく、貴女が貴女だからだ。・・・私とどこの姫君の釣り合いが取れようが、そんなことは関係ない」
『わたくしも、エリアドさまに興味がありますから──ふしだらな女でしょう?』
艶然と笑おうと努める彼女の言葉に、なぜだか急におかしくなり、唐突に私は大きく笑った。
「あはははははっ」
私が笑ったのをどう受け止めたのだろうか。堅い表情を浮かべながらも、彼女は平板な声で言う。
『戯れ言を申し上げすぎましたね。聞き流してくださいませ。さぁ、城に帰りましょう』
そう言って“風の囁き”に跨った彼女の手を引き、なかば強引に馬から降ろす。
そのまま、呆気に取られたような表情を浮かべている彼女に、
「失礼。」
短く言って唇を重ねた。
「・・・では、“夜”もお付き合いいただきたい」
唇の端には、小さな──しかし、不敵な──笑みが浮かんでいた。