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魔性の瞳  作者: 冬泉
第二章「惑う夢」
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魔性の瞳-78◆「惜別」

■ヴェロンディ連合王国/王家の森(湖)


 胸が熱かった。後から後から──胸の内から湧き出すかのように、熱い涙が頬を濡らした。



──これで、良いのでしょうか・・・



 こんなに自制を失うなんて。こんなに、感情を顕すなんて。自分は“夢見”なのだ。人と世に、未来に通じる導きを示唆する者。常に冷静に、常に客観的な立場で有らねばならぬ者。



──こんなに動揺してしまって・・・



 自分を導いてくれた生真面目な師匠、真理査の表情が脳裏に浮かぶ。真理査は、こんな自分を見て何と言うだろうか。これくらいの事で動揺する自分に、呆れるだろうか。



──しっかりしなければ。



 気を取り直す。奥歯を噛みしめると、涙を拭う。こんな想いは押し込めてしまおう。そうでなければ・・・気が狂ってしまう。


「・・・エリアドさま、」


 声が出た。もう──大丈夫。


「わたくし如きをご所望下さって、ありがとうございます。嬉しさの余り、不覚にもみっともないところを見せてしまいました。どうか、お許し下さいませ」


 膝を折って、優雅に一礼──そうそう、やれば出来るじゃないの。


「御存じでしょう? わたくしは、この国では斯くも忌み嫌われている存在でございます。兄が国王であるということだけで、存在することを許して貰っています。エリアドさまのような、前途がある方と釣り合いがとれる筈がありません」



──ほら、もう少し。もう少しで心の扉が閉まる。



「前にも申し上げました。エリアドさまに釣り合う姫君など数多あまたといますでしょう? どうか、わたくしなどは捨て置き、本当に望まれる姫君をお捜し下さいませ」



──そして、決定打を言おう。諦めるために・・・



「・・・それでも・・・わたくしをご所望とあれば・・・“夜”のお付き合いすることには吝かではありませんよ」


 わたくしも、エリアドさまに興味がありますから──ふしだらな女でしょう? そんな言葉をさらりと言うと、婉然と笑いかけた。


「戯れ言を申し上げすぎましたね。聞き流してくださいませ。さぁ、城に帰りましょう」


“風の囁き”の鞍に手を掛けると、一気に跨った。

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