魔性の瞳-73◆「接近」
■ヴェロンディ連合王国/王家の森(湖)
「何を・・・」
言うのですか──と言う言葉を、とっさに飲み込んだ。
この捕らえ所のない相手は、自分の瞳を覗き込んでも何の変化もないこの人物は、一体何を言いかけたのだろうか。
――そんな筈がない。
――そんな訳がない・・・
――信じられない・・・?
心が揺らぐ。自分自身がよく判らない。いや──判りたくないのか?
レムリアは何度も瞬きをして、霧の様に取り巻く迷いを払おうとする。
だが、相手の視線は自分を見つめたままだ。
「・・・あの・・・」
もどかしい。
どうして、旨く言葉が出てきてくれないのだろう。
胸が熱い──いや、痛いのか? それもよく判らない。
「・・・いま、何を・・・」
途切れ途切れの言葉が、今のレムリアには精一杯だった。
無防備な表情で、レムリアは相手の瞳をただ見つめた。
☆ ☆ ☆
「・・・」
そうして彼女と見つめ合ったまま、いったいどれだけの“時”が流れたのだろう。
私には、然とわかりはしなかった。
「・・・すまない。」
私はゆっくりと瞼を閉じ、深く息を吸う。
そして、再び彼女を見つめ、ゆっくりと言葉を続ける。
「・・・どうやら私は、貴女にずっと一緒にいてほしいと思っているようだ。
・・・貴女の気持ちや、都合も考えず・・・」
それは、少し前までは口にすることはできないと思っていたはずの──しかし、真摯な──“想い”だった。