魔性の瞳-70◆「想諦」
■ヴェロンディ連合王国/王家の森(湖)
「退屈などと・・・そんな風には、思ってはおりません」
少し慌てた口調――それは、普段から冷静なレムリアにしては珍しい反応だった。
実際のところ、慎重に言葉を選びながら、精一杯自分の“想い”を吐露するエリアドの話に、レムリアは思わず聞き惚れていたのだが――そんなことなど、口が裂けても認めるわけにはいかない。
自分の想いを押し隠すように、レムリアは少し素っ気なく、エリアドの話を打ち切った。
「お話し下さって、ありがとうございました。不躾にも、お話しをせがんでしまったようです」
失礼しました──と、小さく頭を下げる。
「でも・・・さぞかし素敵な方だったのでしょうね。エリアドさまが、自ら護って差し上げたくなるような・・・」
語尾が小さくなり、仕舞いには消えていた。
湖をじっと見つめながら、レムリアは微かな嘆息を漏らした。
“この人も、本当は“光の道”を歩いて行かれる方なのね・・・”
例え、魔剣“阿修羅”を帯びる運命に有るとしても──所詮、暗闇を歩き続ける自分とは違うのだ──そう思えてしまう自分が哀しかった。
「冷えてきましたね」
立ち上がって乗馬服を取ると、手早く身につけていく。最後に灰色のフードマントを纏った。フード深く被ると、少女なのか、小柄な少年なのか、見分けが付かなくなる。
「城へ・・・帰りましょうか・・・」
それは、恰も長い溜息を付くかのようだった。
どこか、物言いたげに相手を見ていることを、レムリア自身も気がついていなかった。