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魔性の瞳  作者: 冬泉
第二章「惑う夢」
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魔性の瞳-68◆「悲恋」

■ヴェロンディ連合王国/王家の森(湖)


「はい。わたくしがお聞きしても差し支えないのであれば・・・」


 お聞かせ下さい──と静かな声で続ける。心の動揺を押し隠し、冷静に、平静にと自分に言い聞かせる。


“何も動揺することはないのよ。だって・・・何も失うものなど無いのだから。おかしな感情を、自分で弄ぶのは止めないと”


 どうせ全ては夢だと想えば、何を恐れることがあろうか。薄く笑みを浮かべると、レムリアは砂浜に組んだ両手に頭を載せた。


「エリアドさま・・・。どうかお話下さいませ」


               ☆  ☆  ☆


「・・・それは、とても奇妙な体験だった。・・・ヴェルボボンクの街からさほど離れていない、街道筋の小さな宿で一夜を過ごした時のことだ・・・」


 私は、遠い記憶をたぐり寄せながら、静かに語り始める。


 今まで誰にも話したことのない話だった。旅の途中に遭遇した、とても不可思議な、一夜のできごと・・・。


 夜中、私は誰かが自分を呼ぶ声を聞いたような気がして、ふと目を覚ました。その声に応えると、目の前に光り輝く扉が現われ、私は吸い込まれるようにその扉を越え、何処いずことも知れぬ場所に辿り着いた。

 その地で、同じように扉を越えてきた数人の者たちと出会い、それぞれに自分たちのパートナーとなった女性たちとともに、彼女たちを助けるべく、魔物に挑んだ。

 ・・・まぁ、言ってしまえば、ただそれだけのことだ。


「・・・そして、すべてが終わった時、私は自分が宿屋のベッドの上におり、すべては“夢”だったらしいということに気がついた・・・という訳さ」


 その経験をともにしたはずの知り合いの大半は、そのことを覚えてさえいなかった。また、かろうじて覚えていた者も、それは単なる“夢”に過ぎないと思っていたようだ。


 だが・・・。私は、それが単なる“夢”だとは思わなかった。なぜなら、目覚めた時、別れ際に彼女から手渡された宝石いしが、私の手の中にあったからだ。


 私はそのすべてを彼女に語る。


「・・・これが、その宝石いしだ」


 私は宝石の嵌まった銀の首飾りを外して、彼女に差し出す。

 仄かに青みがかった光の揺れる、なかば透き通った白い宝石いし


「・・・ムーンストーン(月長石)。・・・“静寂”を司る宝石いしなのだと聞いた。・・・国によっては“旅の石”とか“予言石”などと言われることもあるらしい」


 私は静かに続ける。


「・・・これが、あの記憶が単なる“夢”でない唯一のあかしということになる。・・・だが、その後、“夢”の中でさえ、一度たりとて、彼女に会えたことはない。・・・あるいは、それゆえに“心残り”になっているのかもしれないが」

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