魔性の瞳-66◆「変化」
■ヴェロンディ連合王国/王家の森(湖)
白い裸身が、蒼い水の中を泳ぎ抜ける。早い──だが、後を追ってくる影も、勝るとも劣らぬ早さだった。追う者と追われる者。勝負は余談を許さぬものとなっていた。
“息継ぎを・・・”
止めれば、無論早くなる。だが、息継ぎ無しでは長くは持たない。どこで最後のスパートをかけるか──それが思案どころだった。
“ここでっ”
出来る限り大きく息を吸うと、レムリアは浜への最後の距離に全力を上げる。あと30フィート。あと20フィート。あと10フィート。
サバアッと水音をたてながら、レムリアは浜辺に倒れ込んだ。ハァハァと荒い息を繰り返すと、酸欠気味の躯に必要な空気を送り込む。
「・・・最初の・・・スタートダッシュに…助けられました」
ぐったりと砂の上に俯せになる。今は指一本動かせない。
「早い・・・ですね・・・」
久し振りの充実感が、自然な笑みを呼ぶ。その屈託無い笑顔は、レムリアをして実年齢よりも二三歳若く見せていた。
☆ ☆ ☆
「・・・君も、な・・・」
呼吸を整えながら、ようやくそれだけ口にする。
仰向けにひっくり返って、もう一度蒼い空を見上げる。
「・・・こんな気持ちになったのは、ずいぶん久しぶりのような気がする・・・。
まだ・・・、こんな気持ちになることができたんだな。私は・・・」
傍らのレムリアの顔をじっと見る。
・・・きれいだな。と素直に思う。
たぶん、この時からなのだろう。私の気持ちの中に“何か”の変化がおきたのは・・・。