魔性の瞳-65◆「競泳」
■ヴェロンディ連合王国/王家の森(湖)
魔導具(Magic Item)である“サイレンの真珠”(Pearl of Siren)の魔力は、けして小さくない。水中で、まさに“人魚の如く”行動できる力(通常人の四倍以上)を与えてくれるのだから。
とはいえ、“競争”と言われて魔導具の力を借りなくてはならないほど、魔導具に頼り切りになっているつもりは毛頭ない。彼女に追いつけるかどうかはやってみなくてはわかるまいが、彼女とは対等なつきあいでいたかった。
そう思わせる“何か”が彼女にはあった。
それに、このような時まで魔導具の力を頼っているようでは、“阿修羅”や“炎の鎧”を使いこなすなど、夢のまた夢。
だから──。握っていた“魔法の真珠”から手を離す。
鎖がつながっているから落としはしない(そのための鎖である)が、肌に直接触れていなければ“魔法の真珠”の魔力は働かない。
魔力に頼らず、彼女を追って泳ぎ出す。
それは、小さな頃、兄と近くの川で競争した時のようだった。
二歳年上の兄には、一度として競泳で勝てたことはなかった。
だが、あまり身体が丈夫ではなかったあの頃とは違う。
家を出て、国を出てからも、剣も、身体も、そして、心も、鍛錬を怠ったつもりはない。
だから──。負けはしない。そう信じて彼女を追いかけた。
思い切って、息継ぎを減らして増速を試みる。
もう少し・・・もう少しで、手が届く・・・。