魔性の瞳-64◆「応酬」
■ヴェロンディ連合王国/王家の森(湖)
私は思わず彼女の屈託のない笑みにつられるように笑みを返す。普段よく浮かべる幾分冷やかな笑みでも、唇の端を歪めるような薄い笑いでもない。あるいは、それは何年かぶりの“心からの笑み”であったのかもしれない。
「・・・種明かしをしようか。」
そんなことを言うと、軽く握っていた左手を開いてみせる。
そこには、銀の鎖に繋がる小さな台座の上で仄かな輝きを発する一粒の真珠。
「“サイレンの真珠(pearl of the Sirines)”と呼ばれるものだ。これの宿した魔力のお陰で、私は水中でも息をすることができるし、人並み以上に泳ぐこともできる。
・・・まぁ、なくても人並み程度には泳げるつもりだが・・・。けれど、正直に言って、あるとなしとでは大違いだろうな。
それに・・・」
いたずらっぽい笑みを浮かべてスッとレムリアの傍らに近づくと、彼女の手を引いていきなり水中にもぐる。
そう、手の届く程度の範囲であれば“真珠”の魔力は周囲にも及ぶ。
「・・・気分はどうかな? なかなかこんな深いところを自由に泳ぐ機会はなかっただろう?」
☆ ☆ ☆
“こんな表情も、出来るのね”
軽い驚きを感じる。エリアド「の第一印象から考えると、想いも寄らぬ事だった。
「ずるいわ。」
だから──思いもよらぬことながら、自然な感想が口をついてでてしまう。
相手に顰めっ面をしてみせると、手を振り解いて身を翻す。
「浜に向かって、競争っ!」
一声掛けると、抜く手を切って泳ぎ出す。スピードには自信がある。例え魔導具を使われても──負けはしない。