魔性の瞳-63◆「個好」
■ヴェロンディ連合王国/王家の森(湖)
岸辺で水飛沫が立つのを見たレムリアの表情には、悪戯っ子のような笑みが浮かんでいた。
“泳ぎは、達者なようね”
エリアドは、手慣れた感じで泳いでくる。
それは、かなりのスピードだ。
程なく、自分のところまでくると、仰向けに浮かんだ。
「気持ちが良いでしょう?」
そう話し掛けるレムリアの表情には自然な笑みが浮かんでいた。
こんなに気持ちが良いのに、顰めっ面などいしていられない。
そもそも、レムリアは泳ぐのがとても好きだった。躯が水に浮く感覚──まるで重さが無くなったように感じる浮遊感がたまらないと感じていた。
「泳ぐのが、とても好きなのです。泳いでいると、現世のしがらみが洗い流されるようだから。」
言葉にすると陳腐に聞こえるのね──そう思うと、レムリアの笑みが深くなった。
一々言い訳をしなくてもいいのに、そんな説明口調の自分が可笑しかった。
「エリアドさまも、泳ぐことに慣れてらっしゃいますのね。失礼に聞こえるかもしれませんが、少し意外に思いました。」
とっても失礼な話ですわね、と屈託無く笑う。その自然な笑顔は、レムリアがいつも身に纏っている“堅さ”を和らげて見せていた。
本来は、このような笑顔がとてもよく似合う娘なのだろう。思えば、堅い鎧を纏い、作られたような笑みを浮かべねばならない現状こそが正常ではないのだ。